戦争に反対する唯一の手段は

“「戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである」。
主に1950年代に活躍した作家、吉田健一の言葉だ。ピチカート・ファイヴが2002年に発売したアルバムのタイトルにこの言葉を引用していて知った。当時、この言葉がすごく嫌いで、「戦争に反対する手段は、他にもいっぱいある」「戦争に反対する唯一の手段は怠惰を極めて一切執着しないことだね」などとたくさん揶揄したものだ。
ただ、最近、何となく、この言葉が単なるスノッブの妄言ではなく、すごく力強いもののように思えてきた。
さっき、radikoでTBSを聴いていたら、菊地成孔さんがこんなことを話していた。
「チェルノブイリも911も起こる前、1984年のイギリスのラヴソングを今日の最後の曲にします。84年にはこんなことで悩んでたやつがいたんだな、と思うけど、84年の世界に何もなかったかというと、そんなことはなくて、アフリカでは紛争があってイギリスとリビアなんか大変だった訳です。いつでも世界には血が流れていて、一方で、すごく些細な恋煩いでチープな歌を唄っているやつがいて。それは、これからもずっと変わらない」。
書き起こしたわけではないので、うろ覚えの概要ですが、こんなことを言われて菊地さんが放送したのはPrefab Sproutのヒット曲「Cruel」だった。
震災ですべてを失った方々に、このアティテュードが有効かどうかは、わからない。たくさんの涙が流れたこの国には、今、重大な変革の決意と強大な力が必要だ。ACのCMのトータス松本みたいなストレートな言葉のほうが強く胸に届くのかも知れない。
でも、力を合わせる前に、一人ひとりが自分の生活を守り、それを美しくすることに執着する。その集合体が正しい民主主義国家の平和であることは間違いない。それが今夜菊地さんが伝えたかったことなのではないか。
少なくともCMでサッカー選手が取ってつけたように発する「日本は一つのチームなんです」という言葉よりも、今夜の菊地さんの態度は具体的で、そして、そこに愛を感じた。”