“「最近、字を読むことがとても難しいんだ」ということを人に話した。それは主にウェブでの情報摂取になれてしまっているせいで、ウイダーインだかファストフードだかおかゆだか、そういうのを食べるのに似てる。十秒チャージ、二時間キープ。二時間だけ。様々な文章たちを噛み締めることなくただ飲み込んでいると血肉にもならずどこかへ消えていく。ウィキペディアで調べたことなんて明日には忘れちゃう。色々な知らないことをグーグルで検索するほどに、色々なことを知らなくなっていくみたい。忘れていくみたい。空っぽになっていくみたい。
それでもただ口の中に感じる一瞬の味を楽しむためだけに、ただ口寂しさを紛らわすためだけに、そういうことを止められないでいる。別にそれをそこまで悪いこととも思わないんだけど。悪いかな。わかんない。
本当にめっきり本は読まなくなってしまって、貯蓄のないところから搾り出すようにこうして文章を書いていたりすると、自分が干上がっていて、底の浅さがどんどん露呈していくのが分かる。
人に会えば必ず「最近なんか読んだ?」「どんな映画見た?」「どんな音楽聴いてるの?」という話になるからつらい。なにも読んでいないし観ていないし聴いていないから。みんな色々な作品を鑑賞している。ぼくはすごく空っぽで、自分の実生活から感じたどうでもいい雑感しか日々から得られていない。
紙に書いてある文字の列をじっと目で追っていると、そのもどかしさに貧乏揺すりしてしまいそう。遅すぎる。時間がどんどん経っていく感じが耐えられない。一行に全然集中できなくって、何度も何度も同じ行ばかり読んでしまう。…時間。
時間に対して以前よりとても卑しくなったと思う。すぐ、一見効率的に見える方に飛びついていってしまう。
「本を読んでるとさ、なんかいますっごい時間が過ぎていってるって感じがもう駄目なんだよね…。ネットの情報の速さに慣れてしまったあとではもう…」
じゃああなたがそんなにムキになっている時間の効率的な運用だけれども、具体的にはどういう風に有用に使えているのかしら?
人に会うと「休みの日とかなにしてんの?」っていう話にもよくなる。なんにもしてないよ。家にいて無為の時間を浪費してる。終わってるよね。
しょうもないことのために時間を効率化して、そうしてできた時間をまたしょうもないことに使ってる。それなのになんでそんな、時間に焦っているの?この執着心ったら、嫌になるよ。なんにもしないくせに。
小学校一年生にならなくても、また字が読めるようになるかな、ねえ先生。”