日本の労働力人口は2020年には2015年と比べて322万人、2030年には853万人、2040年には1751万人も減少していく
AIやロボットが人手不足を補うというレベルを超えて、人手が大幅に余るという状況をつくりだしてしまうのではないか
AIやロボットの普及があまりに速いペースで広まることになれば、新たな雇用の受け皿が整う前にホワイトカラーを中心にしだいに余剰人員が膨らみ、失業率が上昇傾向に転じる時期は思ったより早まることになるでしょう。
雇用の現場に精通しているリクルートワークス研究所の試算によれば、AIやロボットによる代替が進むにつれて失業率が上昇に転じることになり、2025年には最大で5.8%まで上昇する可能性があるということです。
とりわけ団塊世代が定年を迎え始めた2012年以降は労働力人口が大幅な減少傾向にあるのに加え、2017年以降は世界的な景気回復により輸出の増加が重なったため、人手不足は深刻化の一途をたどっています。多くの企業がAIやロボットで徹底した効率化に取り組むのは、必然の流れのなかにあるといえるわけです。
AIやロボットによる効率化は世界的に失業者を増加傾向に転じさせたうえで、格差をいっそう助長する主因になる可能性が高い
21世紀以降のIT、AI、ロボットによるイノベーション(第4次産業革命)は、コストを抑えるための自動化を最大限にまで推し進め、これまでの産業集積や雇用を破壊していくという特性を持っています。
世界の人々の暮らしぶりを変えたアップルやフェイスブックなどのIT企業は、巨大な設備を必要とする伝統的な産業と比べると、莫大な利益を上げて株価も高いにもかかわらず、雇用を生む要素は恐ろしいほど少ないといえます。たとえば、アメリカの株式時価総額でトップクラスの3社である、アップル、アルファベット(グーグルの持ち株会社)、マイクロソフトの3社の時価総額合計は270兆円前後(1ドル=110円で換算、5月上旬時点)と巨額なのに、従業員数は合わせてたったの33万人程度にしかならないのです。
これに対して、日本のトップであるトヨタ自動車の株式時価総額が同じ時点で約25兆円、従業員数が36万人程度あることを考えると、イノベーションによっていくら利益が膨らみ株価が上がったとしても、労働者全体には広く行き渡っていないという実情が浮き彫りになってきます。
経済学者が信じているイノベーションは今や、ほんの一部の企業による寡占の状態を生み出してしまったばかりか、それらの企業が稼ぐ巨額の利益を、ごくわずかの創業者、少数の従業員、目端の利いた株主の3者で分配する仕組みまでつくりあげてしまっています。アメリカでは格差の拡大が史上最悪のレベルにまで進んでいるといわれていますが、この先さらにAIやロボットが爆発的な普及期に突入することとなれば、アメリカの失業率は2017年12月の4.1%から2020年代後半には、ゆうに10%を超えるまでに悪化しているかもしれません。人口が増え続けているアメリカでは、日本より雇用悪化の度合いが強まるのは間違いないでしょう。
私が改めて強調しておきたいのは、AIやロボットによる効率化は世界的に失業者を増加傾向に転じさせたうえで、格差をいっそう助長する主因になる可能性が高いということです。おそらく2020年代のうちには、企業の生産性や株価が今よりも大幅に上がっている一方で、雇用情勢が悪化して不安定な社会が到来することになっているでしょう。