谷川俊太郎 「明日」

ひとつの小さな約束があるといい
明日に向かって
ノートの片隅に書きとめた時と所
そこで出会う古い友達の新しい表情
ひとつの小さな予言があるといい
明日を信じて
テレヴィの画面に現れる雲の渦巻き
<曇のち晴>天気予報のつつましい口調
ひとつの小さな願いがあるといい
明日を想って
夜の間に支度する心のときめき
もう耳に聴く風のささやき川のせせらぎ
ひとつの小さな夢があるといい
明日のために
くらやみから湧いてくる未知の力が
私たちをまばゆい朝へと開いてくれる
だが明日は明日のままでは
いつまでもひとつの幻
明日は今日になってこそ
生きることができる
ひとつのたしかな今日があるといい
明日に向かって
歩き慣れた細道が地平へと続き
この今日のうちにすでに明日はひそんでいる
谷川俊太郎 「明日」