うつ病の漢方治療について

うつ病の漢方治療について
中等度以上のうつ病では、もちろん抗うつ薬による治療が基本となります。しかし、うつ病では、不眠が続いたり、自律神経のバランスが乱れた状態が続いたりで、心身共に消耗していると考えられます。このような観点から、体力を回復する目的で補剤と呼ばれる漢方薬を抗うつ薬に併用すると効果的な場合がよくあります。補剤として、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、帰脾湯(きひとう)などの処方がよく使われます。
 自律神経系の調節作用を期待して、気剤である半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)や茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)もよく用いられます。これらの処方は、抑うつ状態のみならず不安やパニック障害にも効果的です。漢方の診断法の一つに、舌の状態を観察する舌診という漢方独自の診断法がありますが、舌の苔(舌苔)が白く厚い場合に適用があるといわれています。
 漢方治療は、うつ病に伴う身体症状の改善にも効果的な場合が多くあります。例えば、喉の閉塞感や不快感には、先ほど述べた半夏厚朴湯がよくききます。うつ病に伴う頭痛では、釣藤散(ちょうとうさん)が効果的な場合があります。めまいには、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)や半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)、あるいはその合方が有効です。
 軽症のうつ病の場合、漢方治療のみでもかなりの効果がある場合も珍しくありません。先に述べました半夏厚朴湯や茯苓飲合半夏厚朴湯も良い処方ですが、疲労感が強い慢性の軽症うつ病では、補中益気湯や十全大補湯がよく使われます。
 産後にみられるうつ病では、環境の変化や子育てに対する不安などのの要因以外に、出産に伴う消耗やホルモンバランスの急速な変化という要因も重要だと考えられます。母乳で子育てをする場合は、抗うつ薬は使えません。なぜなら、母乳を介して抗うつ薬が乳児の体内に入ってしまう恐れがあるからです。このようなときに、漢方薬の使用を考えます。
 マタニティー・ブルーでは、香蘇散(こうそさん)や女神散(にょしんさん)がよく使われます。産後の衰弱が強いときは、当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)や帰調血飲(きゅうきちょうけついん)が良い処方です。しかし、うつ状態が強いとき、あるいは幻覚や妄想といった精神症状を伴うときは、母乳を中止して抗うつ薬や抗精神薬による治療を行わなければなりません。
 月経前症候群(PMS)や月経前不機嫌性障害(PMDD)も漢方治療が得意とする分野です。体質に応じて、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、帰調血飲、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)などを使用します。エキス剤にはありませんが、折衝飲(せっしょういん)もよい処方です。
 更年期障害の症状とうつ病の症状は、区別が案外難しいのですが、更年期における不定愁訴には、加味逍遙散(かみしょうようさん)がよく使われます。抑うつ気分が強い場合は、茯苓飲合半夏厚朴湯を用います。のぼせには、女神散や黄連解毒湯(おうれんげどくとう)がよく使われます。