イギリスの教育

“イギリスの教育についての、こんな話を紹介しています。
 ロンドン在住の友人から聞いた話ですが、あるとき、12歳の娘さんが宿題の相談に乗ってほしいと持ちかけてきたそうです。友人は仕事が忙しいため、ふだん娘さんとは没交渉になりがちだったので、喜んで娘さんの相談に乗りました。その娘さんは日本人学校ではなく現地の学校に通っていました。出された宿題とは次のようなものだったといいます。
 中世に、サセックス地方の裕福な農家へ嫁いだ女性が書いた日記があった。その農村を仕切っていた地主の執事が書いた記録もあった。それから、19世紀にその時代の農村を調べたオックスフォード大学の教授が書いた「サセックス地方の中世の農家の形態」という論文もあった。この三つを読むにあたって、どういう点に注意すればよいか、というのが宿題の内容だったそうです。
 なんじゃそれは!
 僕はけっこう歴史が得意なつもりなので、「ふふーん、じゃ、答えてやろうかね」なんて思いつつ読んでいて、驚いてしまいました。
 そもそも、なんて漠然とした設問なんだ……こんなの、12歳が答えられるのか?
 友人はあまりの難しさに内心引っくり返ってしまい、苦し紛れに娘さんに「おまえはどう考えているんだ?」と聞いてみたそうです。すると娘さんは、「嫁いだ女性が書いたことには嘘がないと思う。村で起こったことがありのままに書かれているだろう。でも、自転車も電話もない時代だから、自分の目で見える範囲のことにとどまっていると思う。地主の執事が書いた記録は、おそらくより多くの年貢を取りたいという気持ちが働いているだろうから、作物の収穫量などを加減して書いている可能性がある。それを含んで読まねばならないと思う。それからオックスフォード大学の教授の論文は客観的なように見えても、どこかで自分の学説に都合のいいように脚色されている恐れがある。だから頭から信じないようにしたほうがいいと思う。このように答えようかと思っているんだけれど、おとうさん、どうかな?」と言ったそうです。
 友人は「まあ、それでいいじゃないか」と答えつつ、「連合王国の教育はすごい!」と舌を巻いたそうです。
 さすが、ジェームズ・ボンドの国だな、などと僕も感心したというか、脱帽してしまいました。
 この女の子もすごいのだけれど。
 いまの日本の12歳、あるいは15歳くらいでも、こんな質問に対して、自分なりに答えられる人が、どのくらいいるだろうか?
 日本で、「ネットリテラシー」が問題になっていますが、「情報の取り扱いに対する基礎的なトレーニング」のレベルが違いすぎるよなあ、と。”