春の野に 霞たなびき うら悲し この夕影に うぐひす鳴くも
(巻19・4290)
(春の野に霞がたなびいて心悲しい。この夕方の光の中で
うぐいすが鳴いている。)
わが宿の いささ群竹(むらたけ) 吹く風の 音のかそけき
この夕(ゆうべ)かも (巻19・4291)
(わが家の少しばかりの竹林に吹く風の音がかすかに聞こえる
この夕暮れよ。)
うらうらに 照れる春日に ひばり上がり 心悲しも ひとりし思へば
(巻19・4292)
(うららかな春の日にひばりが舞い上がっていって私の心は悲しみに沈むよ。
ひとり物思いにふけっていると。)
この三首の後書きに
春の日はのどかで今しもひばりが鳴いている。
愁い悲しむ心は歌を詠まないでは払うことができない。
そこでこの歌を作って気分をはらすのであるとあります。