谷川俊太郎 / 手紙 「時」

あなたは二匹の
うずくまる猫を憶えていて
私はすり減った石の
階段を憶えている
もう決して戻ってこないという
その事でその日は永遠へ近づき
それが私たちを傷つける
夢よりももっととらえ難い一日
その日と同じように今日
雲が動き陽がかげる
どんなに愛しても
足りなかった
谷川俊太郎 / 手紙 「時」