月経に関連した気分障害(Premenstrual Mood Disorder)、PMS、PMDD
月経に関連した気分障害(Premenstrual Mood Disorder)
最近では月経に関係した気分不安定(身体的不安定を伴うこともある)をまとめて、月経に関連し
た気分障害(Premenstrual Mood Disorder)と呼ぶ。1890年代にはMenstrual Psychiatric Disorderと
呼ばれたものである。
現在の月経に関連した気分障害(Premenstrual Mood Disorder)を細分す
ると、PMS(Premenstrual Tension Syndrome)やPMDD(Premenstrual dysphoric disorder)がある。
PMSは1953年から用いられている用語で月経前緊張症候群と訳される。最近ではTension「緊張
」を省略して、Premenstrual Syndrome(月経前症候群)をPMSとすることも多い。
PMDDは1994年DSM-IVから用いられている用語で月経前不快気分障害と訳される。
女性の場合、月経に関連した気分障害(Premenstrual Mood Disorder)は20代から50代まで及ぶ。女
性の20〜40%が経験し、2〜10%は仕事や人間関係に支障を来していると報告されている(1995
米国)。
そのなかで月経前緊張症候群または月経前症候群(PMS)は、症状に個人差が大きく多彩であ
るが、身体症状として多いのは「食欲の変化、吐き気・嘔吐、頭痛、腹痛、乳房緊満感、のぼせ
・発汗、疲労・倦怠感、浮腫(むくみ)」などであり、精神症状としては「不安・抑うつ、緊張
、睡眠異常、焦燥感(イライラ)、情緒不安定、集中力・判断力の低下」などである。
月経前不快気分障害(PMDD)の症状はPMSの精神症状の重症型と位置づけられる。「著しい抑うつ
気分、著しい不安、著しい情緒不安定、活動に対する興味の減退などの症状が過去1年にわたって
ほとんどの月経周期の黄体期の最後の週に周期的に現れ、月経の次の週には消退するパターンを
とる」ことが特徴とされる。原因として黄体ホルモンの関与が考えられるものの、患者の血中プ
ロゲステロン濃度にほとんど変化が認められないことから、黄体ホルモンのみで発生機序を説明
することはできない。PMDDのリスクファクターとして、1.ライフイベント・ストレス、2.経産回
数が少ない場合、3.気分障害などの精神科既往歴のある場合、4.遺伝(双子研究で優位差あり)が
あげられる。
PMSの診断にはICD-10を用いる。「精神症状がマイルドであり、黄体期の身体症状として腹部
膨満、胸部圧痛、体重増加、腫脹、疼痛、集中力困難、食欲の変化」のなかの一項目でも該当す
ればPMSとする。
PMDDの診断にはDSM-IVを用いる。PMDDは「特定不能のうつ病性障害」に分類されており、仕
事や人間関係が損なわれることがある。
治療についてはSSRIが有効であると言われ、北米、豪州、韓国ではPMDDに対してSSRIの適応が
認められている。日本では認められていない。PMDDにおいては、うつ病の場合よりも効果発現
が早い、血中セロトニン濃度異常があるなど理由から、SSRIが第一選択薬として積極的に用いる
べきだと提唱されている。副作用として悪心嘔吐があるが、1〜4週の服用継続で消失することが
多い。投与法としては間欠投与法が勧められている。症状悪化時期を推定しつつ用いるもので、
合理的である。
付随的なものとして、認知行動療法が有効。家族に対して精神療法的なアプローチが有効。むく
みに対して利尿剤、痛みに鎮痛剤を用いる。性ホルモンは効果ないものの、40歳以上の女性に対
してはホルモン補充療法として使用することがある。抗不安薬はSSRIが効かなかった時の第二選
択薬であるとされている。
現状では日本ではSSRIよりもエチゾラムなどの抗不安薬が選択されることが多いと思う。それで
充分にコントロールできると思うが、今後SSRI以降の薬剤にシフトしてゆくのだろう。