すでに「男らしさ」から距離を取る男性も増えつつある

#MeToo時代は男性の危機なのか? 英米メディアで沸騰する「男らしさ」論争
「男らしさの有毒性」に気付かない男
ハリウッドの映画プロデューサーであるハービー・ワインスタインのセクハラ問題や、性的嫌がらせを受けた人が自らの体験を伝えるハッシュタグ「#MeToo」など、これまで黙認されてきた女性の被害に注目が集まりはじめた。
犯罪者を擁護するつもりはまったくないが、その一方で男性側の思考形成過程や男性から見る男女平等など、“男性アイデンティティ”を見直す動きも台頭している。
2017年10月、英保守党の有力議員が「貧困層出身の未婚男性は“機能を果たさない”人間となり、社会にとって問題になり得る傾向がある」といった趣旨の発言をした。
この発言をうけ、英国人小説家ロス・レーズンは英紙「ガーディアン」に寄稿。議員の発言は「マスキュリニティ(Masculinity、男らしさ)が“有毒”、“壊れている”、“危機に瀕している”といった、ここ最近の表現を反映している」と解説した。
レーズンは、イングランド北東部で男性の自殺率が最も高いのは、失業者の多さや平均労働時間の少なさに関連付けられると説明。男性らしさの象徴とされてきた「収入をもたらす」行為が男性だけのものでなくなり、自信を喪失しているとみる。
カナダ人ビジネス・人材コラムニストのハービー・シャクター氏もカナダ紙「ザ・グローブ・アンド・メール」で、「マスキュリニティは文化に強く根付いており、男女いずれにも影響を与えている」とコメント。歴史的な観点から、職場においてはリーダー格の人間に男らしさが求められてきたと指摘した。
英国のヒップホップグループ「Rizzle Kicks」のジョーダン・ステファンズも同じく「ガーディアン」において、「トキシック・マスキュリニティ(男らしさの有毒性)」はどこにでもあり、男性が解決しなければならない問題だと主張。
「セクハラ問題関連の記事を読んで『自分のことじゃない』と思っている人は、そう思っていること自体がまさに特権で、力で、権力だ」と話すステファンズはこう指摘している。
「女性の尻を触り、女性に命令し、ポルノを見すぎたり女性の居場所を否定したりする。家父長制がこうした行為を『他の人間に対する態度』として受け入れてしまったならば、どうして自分がそれらの権力を求めるようになったのか、理解する機会を失ってしまう」
さらに「男性の脆弱さを否定する風潮は、トラウマを抱えた少年たちの傷にも蓋をしている」と分析した。
「男らしさ」が告発の障壁にも
2018年1月、男性モデル十数人が有名写真家のブルース・ウェーバーとマリオ・テスティーノから性的搾取を受けたとカミングアウト。ウェーバー氏は「呼吸エクササイズ」と称して、男性モデルの裸体を触ったり逆に同氏の局部に触らせたりしたという。
権力を悪用したセクハラは男性にも及ぶことが浮き彫りとなったが、男性ファッション誌「ザ・カット」によると、告発したジェイソン・ボイス氏は「『殴ることだってできたはず、なぜそうしなかったのか?』と突き返されたのが一番心に刺さった」と発言。これまで経験したことのない場面に出くわし、精神的に追い込まれると、身体的能力なんて関係ないと吐露した。
また、「男らしく」騒がずに受け流すべきという思い込みも苦しみを増強したと振り返る。
そんななか、ロンドンでは、「21世紀の男性アイデンティティに立ちはだかる壁や圧力」に焦点を当てる「Being A Man」フェスティバルが毎年開催されている。
4回目となる2017年は男性コメディアンや作家、人権活動家らが、マスキュリニティと権力、父性、いじめ、ポルノ、未成年のナイフ犯罪など多岐にわたるテーマについて議論し、「男らしさ」に疑問を呈した。
その1人である米国人活動家のケビン・パウエルは幼少期の体験談や大学時代のロッカールームトークの内容などを例に、偏った男性像を植え付けられ、感情表現を制限されてきたと告白。
「男らしさの概念を変えなければならない」「女性の気持ちに共感しなければならない」といったメッセージを伝えている。
主催のサウスバンク・センターはゲストスピーカーのポッドキャストを配信している。
米ノートルダム大学の心理学者、ジェームズ・ウィルキーは「男性のほうが女性よりも“らしさにこだわる”傾向が強い」と主張。だが、すでに「男らしさ」から距離を取る男性も増えつつあるようだ。
グローバル市場調査会社「ミンテル」の調査では、米国人男性の18%が、「男性用化粧品の広告にセクシズムを感じる」と回答。25%は「広告に採用されるモデルやセレブ、アスリートは、自身を表していない」と答えた。
特にミレニアル世代では、「よりリアリティがあり、親近感を感じる広告を好む」とした人が25%と、全体(19%)を上回ったという。
フェミニズムや女性の権利が声高に叫ばれる半面、女性ばかりがジェンダー議論の場に集まる傾向がある。男性側の視点にも注目し、男らしさから男性を解き放つことが、真の男女平等への近道かもしれない。