「マルチバースの姿は,かなり具体的にわかってきています。直接の証拠はありませんが,傍証はいくつも見つかっています」。と理論物理学者の野村泰紀・カリフォルニア大学バークレー校教授は話す。マルチバースの考え方は,物理学者たちが長年頭を悩ませてきた,真空のエネルギーの観測地が理論予測より120桁も小さい理由をうまく説明する。また超弦理論によると10の500乗種類もの宇宙が実現可能で,インフレーション理論によれば無限に膨張する空間には無限の泡宇宙が生じる。かつて理論の欠点だと考えられてきたこれらの特徴も,マルチバースと整合するという。
「人間はこれまで,科学を通じて自分は思っているより小さい存在であることを学んできました」と野村教授は話す。唯一の大地だと思っていたものが太陽系にいくつもある惑星のうちの1つの表面にすぎないと知り,その太陽系も銀河に沢山ある惑星系の1つであることを知り,その銀河も宇宙に沢山ある銀河の1つだと知り……それを考えると,むしろ宇宙だけは現在僕らが観測しているものしかないと考える方が革命的なのです」