世界中が競って開発する超電導量子コンピューターの最初の素子を生み出したパイオニアは100量子ビットの高精度な制御を目標に掲げる
いま,世界中で期待が沸騰している量子コンピューター。多種多様なハードウエアの開発が試みられているが,その最前線にいるのが,グーグルやIBM,インテル,各国の有力大学とベンチャー企業がしのぎを削る,超電導を使った量子コンピューターだ。その基本素子となる超電導量子ビットの最初の1個を世に送り出したのが,東京大学先端科学技術研究センターの中村泰信である。
1999年4月,Nature誌の表紙を,NECの基礎研究所にいた中村が報告した1枚のグラフが飾った。緩やかな波形が重なったそのグラフは,基板上に作りこんだ超電導の小さな箱が,クーパー対と呼ぶ電子ペアがN個入った「0」状態と,N+1個入った「1」状態を同時に取る「量子的重ね合わせ」になっていることを示していた。重ね合わせは,測定すると「0」と「1」のどちらかの状態になり,各状態の実現確率は箱に電圧をかける時間によって変えることができる。それは量子ビットの基本動作で,中村は世界で初めて,固体素子を使って量子ビットを作れることを示したのだ。