“私はVC(ベンチャーキャピタル)という奇特な商売を20年もしているので、当然、投資失敗!事業失敗!株主や債権者さん・・・すいません飛びましたという場面にしょっちゅう立会う。 イケイケの「オレIPOしますよ。見ててください!」という、若者が、その後、モデルの彼女と付き合い、カッコイイスポーツカーを運転し、インテリジェントビルににオフィスを構え、プレスで堂々と会見し、日本のザッカーバーグと自分で言っていたベンチャーの社長が、 1年後に、オレと一緒に東京地裁の民事20部でパイプ椅子に並んでマイクで呼び出されるのを待つという構図は何度となく見てきた。 東京地裁の本館じゃなく、横の簡易裁判所で破産者は裁かれる。他の地裁は、ちゃんとコート(法廷)が用意されるが、東京は数が多いので、いくつかのグループが一緒に同じ大きなフロアで一斉に債権者集会がおこなわれる。 学校の教室三つ分の広さぐらいなところにずらっとパイプ椅子が並べられ、中央にはホワイトボードが立つ。入口には破産者の名前が書かれた紙が30人分ぐらい並び、その中から、自分の名前を見つけ、破産者本人ですと告げ会場に入る。 50個ぐらい並んだパイプ椅子にごっちゃに破産者も債権者も座り、順番を待つ。そのうち、ホワイトボードに名前と番号が貼られ、マイクで何番テーブルに行ってくださいといわれる。 6個ぐらいのテーブルに分けられ、2番テーブルに向かうと裁判官と破産管財人、破産者、債権者、いる時は破産者の弁護士が付く。 別に怒号などないし、ぎゃぁぎゃぁ騒ぐやつもいない。そもそも破産後の債権者集会に参加する債権者は稀で、私ぐらいしかいない。ほとんど淡々と粛々と財産の回収状況が報告され、裁判官は次回の集会の日時を告げる。 起業した時の熱情も、モデルの彼女も、いっしょに最後まで頑張りましょうと手を取り合った社員やパートナーもいない。かつて仲間と呼びあった奴らは全員いなくなり、来ない。誰も来ない。IPOを目指しますと私にかつて宣言した元社長がネクタイもしないでクリーニングもされていないスーツ姿で孤独に私の前に座っているだけだ。 機械的に粛々とオートで処理される。 数か月に一度、そんな集会があり、大体平均1年もすれば、免責という借金が全チャらになる。 破産者は借金取りから解放されるかわりに、事故情報が金融機関と住んでる市区町村に流れる。7年の経過を経ないと次回の破産はできても免責はないので、執行猶予7年という感じだ。 全世界の金融システムや保険制度の使用不能及び今まで付き合って来た取引先や知人全部にバカのレッテルを貼られるぐらいで、法的処罰を受けるわけではない。 なので、消息不明イコール逃げているわけではなく、連絡を取らない、取れないが正解だろう。数か月に一度は東京地裁で顔を合わせるのだから生きていることは確認できる。 自殺する奴は少ない。オレの管轄の感想だが。 復活はどうか? 二つに分かれる。 計画的に破産したやつは、知人が「そいつ昨日ゴルフ場で見かけたよ。」と債権者集会の前の日に教えてくれる場合もある。 バックれて逃げるやつは破産前で、破産すると腹をくくった奴は意外と逃げない傾向にあるようだ。 徹底的に責任を被って、男義を見せて全財産すっ飛ばして、前のめりにドブに頭から突っ込んだ奴は、10年単位で地獄をさまよう。 20年たったが、破産したにも関わらず、いまだに私に月に15万5000円づつ振り込んでくる元社長がいる。離婚もし、子供とも会えない。ゴミのような生活をしている。誰ひとりとして相手にされない生活だ。宅急便で夜バイトしている。 そいつの借金は後50年ぐらいあるが、先日オレに事業計画書を持ってきた。 オレは投資するつもりだと返答した。 倒産後社長は何をしているかって? それぞれの本当の生きざまをさらしているだけだ。 糞野郎は糞野郎のように生き、社長の肩書は飛んだが、人間としての責任を全うすることを選ぶ奴もいる。 残念ながら、飛んだあとでも連絡を取れるのは100分の1だが、 そんな奴とは何度でも一緒にパイプ椅子に並んで座る覚悟でいるつもりだ。 投資家にはぶんなぐられるが、そんな頭がおかしいVCがいてもいいと思っている。”