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神経伝達物質と受容体の話
セロトニンを多くすれば元気が出るとか
ノルアドレナリンが少ないからやる気がでないのだとか
そういうことが言われたのは30年位前のことだ
1988年のプロザック
ビタミン欠乏で病気になるとか
(骨が弱くなるとか)
のイメージが素朴な発想なのだろう
また、ホルモンが過剰とか不足とかで病気の症状が出る
というのもイメージに近い
たとえば甲状腺ホルモンとか成長ホルモンとか
しかしこちらはホルモン物質とレセプターが関係するので
ビタミンよりは神経伝達物質に近い
セロトニンが多い少ないと言っても
肝心の、脳内の、特定の部位のセロトニン濃度の話が最初の話である
非常に精密でデリケートな話である
単純にセロトニンやドパミンを増やせば元気になるかと言えば
そうでもなくて
恒常的にセロトニンが多い場合は
セロトニン・レセプターがダウンレギュレーションを起こして、
レセプターの数が減る
という話が有名だ
つまり、セロトニンが多いから、そんなに敏感に反応しなくてもいいということだ
逆に、恒常的にセロトニンが少ないと、
レセプターにはアップレギュレーションが起こって、
レセプターの数が増える
つまり、セロトニンが少ないから、ある程度敏感に反応した方がいいという生体の反応である
ドパミンでもノルアドレナリンでも同じようなことが起こるので
薬剤の調整は、そこのところを頭に入れて行うべきだと考えられたのが
20年位前だろうと思う
その次には、セロトニンを放出する部分の前(プレ)にセロトニンを調整するレセプターがあって
それがセロトニン濃度に影響するとかも言われた
そうなると連立方程式はどんどん複雑になる
結果として精密な思考を放棄して、類感呪術に近い思考になる
しかも、セロトニンはメラトニンになるし、
カテコラミンはドパミン→ノルアドレナリン→アドレナリンと代謝されるので独立ではない
そしてメラトニン生成のプロセスにノルアドレナリンが関与していたりして複雑になっている
そもそも神経伝達物質というものがシナプス間隙を行ったり来たりしていて
動物の高速運動や高速思考に間に合うものか
少し考えても簡単ではない
ドパミンが多い病気にはドパミンブロッカーを使い
ドパミンが少ない病気にはドパミン補充を行うのだが
この二つの病気が正反対というわけでもない
脳の場所が違うのである
セロトニンが少ない病気というものは仮定されているが
多い病気ははっきりしていない(セロトニン系薬剤の副作用としてのセロトニン症候群は知られているが
セロトニン不足と対照的というわけではない)
体内ではセロトニンは腹部神経に大量に存在している
だから、脳内のセロトニンを調整すると主張している薬は、
たいてい腹部症状を引き起こす
しかしすぐに慣れてしまい、平気になる
それならば脳神経では平気にならないのだろうか
ノルアドレナリンが多い病気ははっきり知られているが
そのことと精神的変調がダイレクトに関係して比例しているわけでもない
ポストシナプティックレセプターの話が出てこないのは困るし
プレシナプティックレセプターの話が出てこないのも話が進まない要因になる
しかしもろもろの話を全部省略して、
私の場合はセロトニンを増やせばいいと何か始めたり
私はノルアドレナリンが問題だからと何かを始めたり
そういう思考に接したときには
それ自体、セロトニン不足とかノルアドレナリン不足の症状かも知れないし、
何か別の病気の症状かもしれないと考えることになる
血液検査でセロトニンの量を測ってくださいとか
そんな話が出たとすれば
随分いろいろな話を省略しているのだろうが
その省略の仕方に、何かの病気を疑うヒントがありそうな気がする