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「差別助長」批判も
タイ東北部の農村地帯の公立中・高校に、「女の子になりたい男の子」専用のトイレがある。「第三の性」の固定化が差別につながると懸念する声もあ
るが、色気たっぷりの男子生徒らは、「仲間同士でくつろげる『女』の園よ」と大満足だ。(タイ東北部シーサケットで、田原徳容)
「利用は今だけ。20歳で性転換するもん」
シーサケット郊外の県立カンペン中・高校の昼休み。校舎の外に並ぶ3棟のトイレのうち、男と女の半身を合わせた不思議なマークが目立つ1棟に十数人が出入りし、異様な盛り上がりを見せていた。
「ベッカム(プロサッカー選手)、すてき!」。花柄のカーディガンを羽織ったウィチャイ君(16)が嬌声(きょうせい)を上げると、コンパクトミ
ラーで化粧のノリをチェックしていたブーンティップ君(12)がすかさず、「もっときれいにならないと相手にされないわよ」と鋭いツッコミ。一同、甲高い
爆笑の渦に包まれた。
名付けて「男女半々トイレ」。物心ついた頃から心は女という彼らにとって理想のオアシスだ。男子用制服は規則なので着用するが、ヒョウ柄コートに
化粧ポーチをぶらさげるなど周辺アイテムでのおしゃれは欠かせない。化粧は女子も含め原則禁止だが、「ナチュラルメークはOKよ」とウィチャイ君。女子に
教えるほどの腕前だそうだ。トイレの外観については、一同「センス、なーい」で一致。外壁にカラフルなお花畑を描く計画を進めている。
トイレの完成は昨年4月。男子トイレでいじめられ、女子トイレでは変態扱いされる男子を目撃するたびに胸を痛めてきたシティサック校長が、生徒の
意見を取り入れ、導入に踏み切った。12~17歳の全校生徒2652人中、約200人もいる「女子化した男子」は、もちろん大喜び。異性化願望を告白する
男子も続出したほどだ。普通の生徒らも「一緒でないほうが安心して用を足せる」と評価し、トイレ内のもめ事は一気に解消された。
このトイレが今夏、タイ東北部の「公共施設トイレコンテスト」で準優勝した。リラックス目的で郷土民謡を流す工夫と清潔さが認められたのだが、注
目されたのは当然、「男女半々」。テレビで紹介されると県内外の中・高校から問い合わせが殺到し、教育関係者の見学が相次いだ。マークの発案者でもあるシ
ティサック校長は、「このトイレは多様な性を受け入れる革命的なもの。各地につくるべき」と自信たっぷりだ。
だが、注目度に反し、実際に同様のトイレを設置した中・高校は、現段階ではない模様だ。教育省のスメート・ヤムヌーン事務次官は、「従来通り普通の環境で対応すべき」と否定的だ。
タイのジェンダー研究の第一人者、タマサート大学のチャリダポン・ソンサムパン准教授は、「女子になりたい男子の存在を本当に尊重するなら、女子
トイレの利用を認めてやってほしい」と主張する。さらに、女装男性や性転換者に「異常」のレッテルをはることで兵役を免除する軍を例に、「分類化は差別を
助長する恐れがある。子供たちの生きる道を狭める可能性もあり、教育機関の判断としては到底賛成できない」と不安をあらわにした。
だが、「男女半々トイレ」の利用者にとっては、准教授の心配はありがた迷惑にしか聞こえないようだ。ブーンティップ君は、「差別だなんて……ひどい。社会に容認されたという感じのほうが強いわ」とヒステリックに反論した。
とはいえ、ブーンティップ君いわく、このトイレは学生時代だけで十分だとか。「だって20歳で性転換するんだもん。手術後は堂々と女性トイレを使うわよ」
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