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「人がいつ死んでしまうかわからない」と正直に感じる人は、大抵どこか壊れている。
普通の世界は、そういう「虚無」というものを隠蔽するために、仕事したり、恋をしたり、家族を持ったり、夢中になったり、空気を読んだり、旗をふったり、戦争したり、僕らは大騒ぎして生きているのだ。「空気に合わせて楽しく生きる」というのは、世界の虚無を隠蔽する陽気なお祭り騒ぎだ。
でも、一部の人は、自分の心に対してそういう隠蔽をスルのが下手だ。
そういう人は、みんなが盛り上がっている瞬間に、ふと世界に醒めてしまう。そして、その世界に醒めていること自体を必死で隠そうとする。糖衣が剥がれてしまった苦い薬を、甘いままであるようなふりをしてしゃぶり続ける。
「アンダーカレント」は、そういう世界の隠蔽ができないままに、それでもグダグダとなんとなく、飄々と生きる主人公の姿を描いてみせた驚異的なお話だった。
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