誰もがありのままの姿で、弱さを見せ合える社会に―。
発達障害(神経発達症)の一種、注意欠如障害(ADD)と診断された神戸市のシンガー・ソングライターyu―ka(本名・馬場優果(ばば・ゆうか))さん(25)が日常の体験を歌い、周囲との違いや生きづらさに悩む人々の共感を呼んでいる。
「私ってちょっとヘンテコ。
本当はとっても綺麗なまんまるちゃんの方が良かったんじゃないの?」「そのままのでこぼこなアデコが今大好きになったんだ」
診断後に初めて作った「アデコと君の唄」には、ADDをもじった「アデコ」という名の女の子と兄が登場する。
時間をかけてそのままの自分を受け入れたyu―kaさん自身を、「おっちょこちょいなアデコ」を優しく見守り続ける兄の姿に投影した。
専門医を受診したのは、大学3年生だった20歳のころ。
飲食店のアルバイトで注文を忘れたり、片付けの分担が分からず立ち尽くしたり、失敗が重なった。
心配になり、両親にも言わず1人で病院へ。
診断で理由が分かりほっとした半面、就職を控え不安も押し寄せた。
「誰にも相談できない日々が続きました」と振り返る。
知人から、障害を公表しながら社会で活躍するNPO代表や企業の社長を紹介され、少しずつ受け入れられたという。
忘れ物は多いが努力家だったり、融通が利かないが、心がまっすぐだったりする仲間の良さを伝えようと約15曲を制作。
得意だったピアノの弾き語りを始めた。
発達障害の啓発イベントやライブハウスで歌い、インターネット上にも投稿。
閲覧数は約2万回に達した。
8月上旬、神戸市長田区の介護施設でライブを開き、就職面接で障害をカミングアウトできない葛藤をつづった「きっと言えるよ」を歌った。
滋賀県近江八幡市から訪れた女性会社員(32)は仕事で壁にぶつかり、何か障害があるのではと受診したばかり。
「確定診断を受けるかどうか、迷っています。
歌だと重くならず、心が軽くなりますね」と聞き入った。
yu―kaさんは「歌には押しつけずに理解を広げる力がある。
わたしたちの特性を生かしてもらえる社会になったら、誰もが弱さを見せ合えるようになるんじゃないかな」と話した。
※発達障害(神経発達症)
こだわりが強い自閉スペクトラム症(ASD)や忘れやすい傾向のある注意欠如多動症(ADHD)、限局性学習症(LD)などの総称。
個人差はあるが、得意なことと不得意なことの差が大きく、学校や職場など集団生活で壁にぶつかる人も多い。
神経回路や神経伝達物質の調整機能の差が原因とみられ、神経発達症と呼ぶ専門家も増えてきた。
研究の歴史は浅く、数年ごとに診断名や基準が見直されている。