耳鳴り、薬控えカウンセリングを 国内初の診療指針案

 国内で初めてとなる、耳鳴りの診療指針がまとまりました。耳鳴りの大半は、薬で治療をしても効果がなく、カウンセリングによって、耳鳴りとの付き合い方を支援することの重要性を強調する内容です。指針をまとめた慶応大の小川郁教授(耳鼻咽喉科学)に耳鳴りの特徴や付き合い方のコツについて聞きました。
――耳鳴りはなぜ起きるのでしょうか。
 多くは加齢に伴うもので、耳が遠くなる「難聴」の裏返しの現象だと考えて下さい。耳が衰える一方で、脳の認知機能が音を拾おうとするために起きているのが耳鳴りという症状です。ある意味、白髪や薄毛のようなものだと言っていいです。人口の1~2割が経験しているとされていて、超高齢社会の訪れとともに、今後も増えていくとみられます。
――どう付き合っていけばいいのでしょうか。
 残念ながら、加齢に伴う耳鳴りに特効薬はありません。「このまま耳が聞こえなくなるのではないのか」「頭がおかしくなりそうだ」といった悩みを抱えている人がいる一方で、そんなに気にしない人もいます。耳鳴りは個人の受け止め方次第で、苦しむ人と平気な人が出てきます。「まあ、年だから」くらいに受け止めて、気にしないで生活できるようになるということが耳鳴りと付き合う上で重要です。
――耳鳴りのある人は、日頃何を心がければいいのでしょうか。
 疲れたり、ストレスがたまったりすると、人は身を守るため危機を早く察知しようと感度が上がります。このため耳鳴りもひどくなったり、気になったりします。自分の生活の環境やリズムを整えることだけでも、苦痛が和らげられる可能性があります。気になって眠れない場合には、音楽をかけたり一時的に睡眠薬を使ったりすることも考えられます。
――気をつけることは
 加齢に伴う耳鳴りの多くは、両耳で徐々に現れてくるということが多いです。こうした場合はほとんど心配ありません。片方の耳だけで急に耳鳴りがするようになった時などは注意が必要です。突発性難聴や、メニエール病、聴神経腫瘍(しゅよう)などが隠れている場合もあります。まずは耳鼻科でしっかりとした検査をしてもらうことが大切です。
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 大人の10人に1人以上が抱えている「耳鳴り」の診療に関する国内初の指針案を日本聴覚医学会がまとめた。18日、神戸市であった大会で概要を発表した。耳鳴りの多くは薬による治療は効果がなく、カウンセリングを丁寧にして耳鳴りとうまく付き合えるように支援することの重要性を強調している。
 耳鳴りは外に音源がないのに、自分の耳の中で音が聞こえる状態。米国の診療指針(2014年)では、耳鳴りの経験がある人は成人の10~15%とされ、日本には1千万人以上いるとみられる。ストレスや難聴、耳の病気のほか、原因がよくわからない場合もある。多くは回復が難しく、症状を和らげながらうまく付き合うことが必要だ。
 指針では、治療の際にまずカウンセリングをすることを推奨した。耳鳴りの原因や付き合い方を知ることで、患者が覚える不安や苦痛を軽くできる場合も少なくないと指摘した。
 現状の受け止めや考え方を変えることで精神的な苦痛を緩和する認知行動療法も効果が高いとした。耳鳴りを和らげるため、補聴器のような機器で別の音を流す音響療法や、難聴の場合は補聴器も効果があることを紹介している。
 一方、向精神薬などの薬物療法や、栄養補助食品、頭部への磁気刺激は、現時点では勧めないとした。効果の科学的根拠が十分検証されていないためだ。向精神薬は、抑うつや不安、不眠などの症状の緩和のために用いられるべきだと指摘している。
 患者が適切な診療を受ける上での課題も盛り込んだ。心理療法士のいる耳鼻科が少ないことや、耳鳴りに対して適切な認知行動療法を身近な医療機関が提供できるような環境の整備が今後求められるという。
 国内には治療についての統一された指針がなかった。指針案は来春正式に公表される。指針の研究開発班代表の小川郁・慶応大教授(耳鼻咽喉(いんこう)科)は「多くの耳鳴りは白髪などと同じで加齢とともに付き合うことになる。患者が現状を受け入れられるように医療機関に丁寧な説明が求められる」と話している。