ゲーム障害 ICD-11

さまざまな依存症がある中、今年(2018年)6月に発表された世界保健機関(WHO)の国際疾患分類の最新第11版(ICD-11)では”ゲーム障害”が加えられ、ゲームへの依存が注目されている。
ネットとゲームが複雑に絡み合う
 インターネット依存、ゲーム依存、ネットゲーム依存という用語は混在している。”ネット依存”は1995年ごろに提唱されたといわれるが、それ以前にも類する用語は幾つかあった。近年では、ネット依存という用語が頻繁に使われるようになり、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)や動画など依存対象となるネットコンテンツの中でもゲーム依存の問題が大きく、着目されるようになった。
 中山氏は「その中でネットゲーム障害、ゲーム障害という用語が使われるようになった。しかし、ネットが普及する前からゲーム依存に関する論文などは発表されていたため、どのような経緯で派生したかについては明らかでない」と述べている。
 オフラインゲームにも依存はあるが、同氏は「オフラインゲームには限界があり、数十時間で一度終了する、飽きてくるというプロセスを経ることが多く、それほど大きな問題にはならなかった」と説明。一方、オンラインゲームでは空間やプレーヤー同士の関係などが無限に広がり”ゲーム依存”の問題が拡大したという経緯がある。ともに依存対象であるネットとゲームが複雑に絡み合っている。
なんらかの悪影響が出るのが”依存症”
 青少年のゲーム依存では、ゲームを続けることによって遅刻・欠席日数が増加してもなお、ゲームをやめられないことが多くなる。依存症の診断には幾つか基準があるが、”そのためになんらかの悪影響が出る”ことが1つの基準となる。悪影響は軽度(成績が少し下がる、疲れるまでゲームをするなど)から重度までさまざまで、最重症が引きこもりや不登校ということになる。
 中山氏は「何を悪影響と判定するのか、どの程度の悪影響を問題とするのかについては明確に決まっていない」と説明。明らかに本人の人生に関わる状態、周囲の人への影響が大きいなど、生活に影響を及ぼしているレベルを悪影響とすることが多い。
 自記式のインターネット依存度テスト(Internet Addiction Test;IAT)では70点以上でネット依存が疑われる。中・高校生全体で70点を超えるのは数パーセントであるが、自記式のため、確定診断には至らず”依存症疑い”となる。過去の研究からネットゲーム障害の発症は中・高校生がピークと見られ、成人では減少する。
 しかし、ネットが普及してから日が浅い(約15年)ため、現在依存症の中・高校生が成人期を迎えた後の状況は不明である。ただし、現在でも成人のネットゲーム依存率は中・高校生に比べると大幅に低く、同氏は成人後は症状が軽減する可能性があるとみている。
入院治療という選択肢も
 同センターにおけるゲーム障害の新規患者は年間200例以上で、そのうち約3分の1〜2分の1は家族のみが外来を訪れるという。患者はおよそ5:1で男性が多く、70%ほどが未成年者。外来は完全予約制であるが、予約が埋まることもあるため、潜在的な需要は多いと思われる。
 自宅にいるとネット漬けゲーム漬けで、登校できなくなるほどの重症患者では入院治療という選択肢もある。入院中はネットから遮断された環境に置かれるため、症状が改善することに加え、退院後の社会復帰(復学や復職、アルバイトを始めるなど)のきっかけになるケースも多いという。中山氏は「重症患者は入院した方がよい」と述べている。
 入院によってネットやゲーム環境から距離を置くだけでなく、認知行動療法(CBT)などの治療プログラムを行うこともある。CBTの他に運動療法、作業療法などもあるが、ゲーム依存に対する薬物療法は行わない。ただし、合併する精神疾患や発達障害などに対する薬物療法を行うことはある。合併症の改善によりゲーム・ネット依存の改善が見られた症例も複数あるという。
 ゲーム障害がICD-11に加えられるまでは医療機関における対応が難しかったこともあり、ゲーム障害に関する疫学研究もまだ行われていない。同氏は「ゲーム障害が”疾患”になったことによって、今後は疫学を含めた研究が進むことになるだろう」と述べる。
発達障害と合併しやすい
 依存症はアルコールやドラッグ、ギャンブルなど基本的に成人で多い疾患であるが、ゲーム障害に関しては青少年の患者が中心という点が異なる。そのために問題となる点が幾つかある。まず、発達障害の合併である。ゲーム障害では発達障害の影響が大きいが、青少年ではより強い関連が見られる。注意欠陥多動性障害(ADHD)は明らかにゲーム障害と関連しており、アスペルガー症候群とゲーム障害も関連している可能性が高いという。
 発達障害を合併していないゲーム障害患者も少なくないが、受診するほどの重症患者では発達障害や精神疾患を合併していることが多いという。中山氏は「個人的な印象ではあるが、両者を合併していると重症化しやすいと思われる」と述べている。
今後の取り組みに期待
 さらに、未成年者であるため全てを自己責任にできないという点も問題となる。未成年者は、依存症の治療を受けるかどうかの決定、治療選択、依存症による悪影響や害悪を自分で解消することはできず、大部分は保護者の責任となる。そのため、依存症に対するアプローチは成人とは異なるという。
 ゲーム依存によるさまざまな悪影響も成人の場合は自己責任となり、就業が困難になれば生活が困窮する。しかし、未成年者では登校できなくても保護者が生活を維持してくれるため、自覚を持ちにくく、治療にもつながりにくいという。中山氏は「これが、青少年が対象のゲーム障害治療の難しい点といえる。患者本人が理解しないと依存症には立ち向かえないため、本人にも話はするが、ゲーム障害によって親が困っているケースが多い」と述べている。
 ゲーム障害が”疾患”として認識されたことにより、今後は大規模疫学調査などの実施も期待される。同氏は「ゲーム障害がICDに加えられたことで医療、行政、教育、家庭が連携して取り組む土壤ができたといえる。今後はこの障害で苦しむ青少年が減ることを望む」と展望している。