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 成人期の注意欠如・多動性障害(ADHD)のスクリーニングには、
世界保健機関(WHO)が中心となって作成した症状チェックリストであるASRS
使用されることが多い。しかし、ASRSは米国精神医学会(APA)が策定した
『精神疾患の分類と診断の手引き第4版(DSM-Ⅳ)』の基準に沿って作成され
ているため、同手引きの最新版である第5版(DSM-5)で示された診断基準には
合致していない。そこで米・Massachusetts Institute of TechnologyのBerk Ustun氏らは、
DSM-5の基準に合致させるとともに簡便なスクリーニングツールとして使用
できるよう、質問項目を6項目に絞ったDSM-5版ASRSを作成。
その精度を検証した結果、成人期ADHD患者を正確に発見できる可能性が
示されたとJAMA Psychiatry2017年4月5日オンライン版)で報告した。

新診断基準で成人期ADHD患者数が増加

 ADHDは小児期に好発するが、成人後も症状が残存する例が少
なくない。また、最近は成人期の新規発症例があることも明らか
になりつつある。成人期ADHDは二次的な精神障害の併存や就業
困難、事故による外傷、早期死亡などのリスク上昇と関連するこ
とが報告されているが、未診断あるいは未治療の成人ADHD患者
は多いと考えられている。

 一方、DSM-5ではADHDの診断基準を満たす条件の1つである
症状が現れた年齢が「7歳以前」から「12歳以前」に引き上げら
れるとともに、成人期ADHDの診断を満たすための症状の数が5つ
から4つに減ったことから、成人期ADHDの診断基準を満たす例
はさらに増えたと見られている。しかし、現在普及している
成人期ADHDのスクリーニングツールはDSM-Ⅳの診断基準に
基づいたものであったことから、Ustun氏らは今回、2001~02年
に全米で実施された精神保健疫学調査(NCS-R)やマネジドケア
加入者を対象とした調査、米・New York University Langone Medical
CenterのAdult ADHD Programの受診者などのデータを用いてDSM-5
の診断基準に準拠した新たなASRSを作成。さらに、
このDSM-5版ASRSによるスクリーニング結果の正確性を検証した。

 なおDSM-Ⅳ版ASRSは、ADHDの診断の予測能が最も高い6つ
の質問に対する回答に基づいた簡便なスクリーニングツールであるが、
同氏らはDSM-5版ASRSも同様の簡便なツールとすることを目指し、
質問項目を絞った尺度を開発するために機械学習アルゴリズムを使用した。

「話に集中できない」「ぎりぎりまで物事を先延ばしに」
などの頻度を5段階で回答

 その結果、DSM-5の診断基準に準拠した成人期ADHDスクリーニングの
質問項目として、以下の6項目が同定された(カッコ内はDSM-5のADHD
診断基準で該当する項目)。

  1. 直接話しかけられているにもかかわらず、その内容に集中する
    ことが困難だと感じることはあるか(DSM-5 A1c)
  2. 会議といった着席すべき場面で離席してしまうことはある
    か(DSM-5 A2b)
  3. 余暇にくつろいだり、リラックスして過ごすことが難しいと
    感じることはあるか(DSM-5 A2d)
  4. 誰かと会話しているとき、相手の話がまだ終わっていないの
    に途中で割り込んで相手の話を終わらせてしまうことはある
    か(DSM-5 A2g)
  5. ぎりぎりまで物事を先延ばしにすることはあるか
    (DSMには記載されていない質問)
  6. 日常生活を円滑に送るために誰かに依存することはあるか
    (DSMには記載されていない質問)

 スクリーニング対象者は、以上の6項目について①全くない
②ほとんどない③時々ある④頻繁にある⑤かなり頻繁にある―
の5段階で回答。いずれの項目も「全くない」場合は0点とする一方、
最高得点は項目ごとに2~5点の範囲で重み付けされ、
合計点数0~24点で評価するツールとした。

一般人口と専門外来受診者のいずれの集団でも有用

 上記の調査(NCS-R、マネジドケア加入者、New York University
Langone Medical Center)対象者(計637人)のうち、診断面接で
DSM-5の成人期ADHDの診断基準を満たしていたのは、それぞれ
44例(37.0%)、51例(23.4%)、173例(57.7%)だった。こ
のうちADHDの有病率が低いと考えられる一般人口を対象とした
NCS-Rとマネジドケア加入者に、今回作成されたDSM-5版ASRS
を適用したところ、カットオフ値を14点以上とした場合に感度
91.4%、特異度96.0%、ROC曲線下面積(AUC)0.90、陽性適中率
67.3%であることが示された。また、ADHDの有病率が一般人口と
比べて高いと考えられるNew York University Langone Medical
Centerの受診者に、DSM-5版ASRSを同じカットオフ値で適用した
ところ、感度91.9%、特異度74.0%、AUC0.83、陽性適中率82.8%
であることが示された。

 なお、今回作成されたスクリーニングツールの6項目のうち、
「先延ばし」や「他者への依存」に関連した2項目はDSM-Ⅳと5の
診断基準には含まれていない内容だが、最近これらの症状が
成人期ADHDの診断を予測する上で有用であることが報告
されているという。

 以上を踏まえ、Ustun氏らは「DSM-5版ASRSは短時間で簡単
にスコアを算出することが可能だが、高い感度と特異度で
一般人口における成人期ADHDをほぼ全例発見でき、
専門外来を受診した患者においても成人期ADHDの有無を判定
できることが示された」と結論付けている。