「最近、新しい友人を作りましたか」

 「最近、新しい友人を作りましたか」。筆者がこう周りに聞くと、首を傾げて1人もいないと答える中高年は多い。人は年を取るほど、友人、知人を作りにくくなる。
日本の高齢者の4人に1人は友達がいない
 これは世界共通の傾向のようだ。2016年に発表された論文によれば、友人のネットワークの輪は10代、20代と広がり、25歳をピークに、その後は縮小トレンドに入っていくという。ニッセイ基礎研究所のレポートによると、日本の高齢者の4人に1人(25.9%)が友人がいないというデータもある。これはアメリカ(11.9%)や、スウェーデン(8.9%)などと比べても非常に高い水準だ。
 いざというとき、家族以外に頼れる人、相談できる人がいないということだ。こうしたつながりがあるかないかは、人の健康や幸福感に大きく影響する。つながりがなく、孤独であるリスクは一日たばこ15本吸うことや、アルコール依存症であることに匹敵するといわれている。
 6月6日放送のNHKの「ためしてガッテン」でも、孤独が炎症を促進し、健康を害することや、「つながり」が健康寿命の最強の条件であり、寝たきり予防に最も効果があることが紹介され、話題を呼んだ。昨今、過度に「孤独」が美化されているきらいがあるが、科学的にみれば「孤独」はリスク要因でしかない。
 日本では、中高年男性の孤独度が際立って高いのが特徴的だ。一人暮らしの高齢者のデータを見ると、困ったときに頼る人がいないと答えた人の割合は女性が8.5%に対し、男性は20.0%に上る。
 また、会話が2週間に1回以下という人の数は、女性の場合は3.9%に対し、男性の場合、その4倍近い16.7%という水準だった。
 ニッセイ基礎研のレポートによれば、「特に男性において、高齢期になってから新たな友人を作ろうとする人が日本は少ない、また作れる機会が他国よりも日本は少ない。日本人は非常に律儀であり、他人に対する配慮や気兼ねの意識が強く、また身内(仲間)かそうでないかで極端に態度が異なる(=ウチ・ソト文化)と言われている。
 こうした日本人特有の意識(精神性)が、高齢期に新たに友人を作るという行為を抑制してしまっているのかもしれない。
 長年の人生経験から、人間関係の煩わしさばかりが強調される結果、高齢になって新たな友人を作ることを妨げてしまっているといったことも考えられる」(要約)と分析している。
「妻依存」夫が増えている
 こうした「友達のいない既婚男性」が頼りにするのが妻である。筆者の周りでも、妻以外に打ち解けて話す人がいないという「妻依存」夫が増えている。「愛妻家」に見える一方で、実は妻が会社以外の社会との唯一の窓口、という側面もある。
 都内の30代半ばの会社員女性は夫が「妻依存」ではないかと悩んでいる。同世代の夫は、趣味もなく、一緒に外出する友人も少ない。誰かが飲み会を企画してくれれば、うれしそうに参加するが、自ら声をかけたりするのは億劫だと言う。だから休みの日はつねに家にいて、夫婦で何かしようと言ってくる。
 妻は趣味の時間も欲しいし、友人とよく出掛けるのだが、夫を置いて出掛けるのも心苦しい。たまには一人の時間も欲しい。これからずっと、「妻だけが友達」という人生を送り続けるのだろうか。妻としては将来を考えると、なんだか気が重い。
 今年55歳を迎えた男性はテレビ局の制作の第一線で、昼夜を問わず働き続けてきたが、最近、その現場を離れ、子会社に転籍した。子会社では、役員という立場だが、なるべく早く家に帰れ、と言われ、夕方6時ぐらいには帰途に就くことになる。
 最近は「ジタハラ」(時短ハラスメント)などという言葉もあるらしいが、帰る時間を選ぶ自由を奪われるという意味では、まさに「ハラスメント」のように感じる。
 NHKで、まっすぐ家に帰らない「フラリーマン」なるサラリーマンの生態が話題になっていたが、自分は「フラフラ」する場所さえ思いつかない。最初の内は、飲みに行ったりもしたが、そんなに一緒に飲み歩ける友人がいるわけでもない。仕方がないから、まっすぐ帰るが、家にいても本を読むぐらいしかやることがない。
 友達も趣味もないので、休みの日も家にいるが、最近、共働きの妻は仕事がやたら忙しいらしく、週末もほとんど出掛けている。それが何とも腹立たしく、「いつ帰るんだ」「なんで、そんなに出掛けるんだ」などと愚痴ってしまう自分がいる。
 家事はすべて妻頼み。妻は、「身の回りの世話から人間関係まですべてが妻依存」といら立ちを隠さない。これで、完全に退職して、仕事を辞めたら後はどうなるのか。妻は、「身の毛がよだつほど、恐ろしく、憂鬱な気分になる」とため息をつく。
小遣いも減少
 夫の妻依存は現在に始まった話ではない。妻に先立たれた男性はしぼむように生気を失うというのはよく聞く話だ。第一生命経済研究所の研究では、配偶者と死別し、一人暮らしをしている高齢者の幸福度は女性のほうが高く、女性の場合は死別後、友人と過ごす時間が増加するのに対し、男性は一人で過ごす時間が大幅に増加しているという結果だった。
 それでも、地縁血縁のあったころは、近所の知り合い、幼なじみ、学校の同級生、地域の仲間など、男性でも、妻以外のつながりを維持することはそれほど難しくはなかった。そうした縁も薄れ、「つながり」を作るハードルは限りなく上がっている。
 そこにオジサンを取り巻く環境の厳しさも追い打ちをかける。オジサンの小遣いはバブル時代は7万円台だったが、今は3万7428 円と半減(2017年、新生銀行調べ)。妻がママ友や友達とフレンチのランチを楽しみ、ネットワークを構築する一方で、夫は平均590円のランチ(同)でしのいでいるわけで、趣味や友人にかけるおカネもあまりない。最近はコンプライアンスもうるさく、浮気も許されないご時世だ。
 そういう事情に加えて、そもそも男性は、女性と比べて圧倒的に「友人関係を大切にしない」という傾向がある。民間のある調査によると「女性は『子どもを通じた友人』との付き合いもしつつ、『学生時代の友人との付き合い』も連綿と続け、ライフステージごとに(つながりを)増やしている」一方で、「男性は30代以降、社会人としてのキャリアを積む年代で『学生時代の友人』とは急速に疎遠になる」という結果だった。
 人類学者、進化生物学者として高名な英オックスフォード大学のロビン・ダンバー教授は、高校から大学に進んだ学生を追跡調査し、「女性は、電話で話すことなどを通じて長距離の友情関係を維持することができるが、男性は一緒に何かをすることがなければ、関係を継続することが難しい」と結論づけた。
 「男性にとって、おしゃべりは何の役にも立たず、サッカーを一緒にする、見る、一緒にお酒を飲む、といった共通体験がないと、関係を維持できない」と分析する。
 ダンバー教授の言葉を借りれば、「(男性の友人関係は)去る者は日々に疎し」。男性は関係を維持するために、物理的に時間を一緒に過ごし、何らかのきっかけやアクティビティが必要なこともあり、つながりを作るためのハードルが高い。
「男性の甘え」とは?
 アメリカの心理学者トーマス・ジョイナーは著書『Lonely at the top』(頂上で孤独)で、男性がなぜ、孤独になっていくのかを詳細に分析しているが、その中で、「男性の甘え」について言及している。
 男性は成功と権力を追求する過程で、友人や家族を当たり前の存在とみなす傾向があるとし、男性は、女性に比べ関係性を構築する努力を怠っている、と指摘する。男の子同士の交流は、たとえば、スポーツや興味がある「モノ」を通じて成立しているため、それほど、「人」に対する気遣いをする必要がなく、関係維持に対してもあまり熱意を注ぐことがない。
 一方、女性は小さい頃から、複雑な人間関係を読み解き、お互いの表情や感情を気遣いながら、「共感関係」を構築し、維持する訓練をされ、努力をしている。結果的に、男女の間で、対人関係の構築力に大きな差が出てしまう、というのだ。
 先述の第一生命経済研究所の研究では、配偶者との死別後、「異性のパートナーや友人が欲しい」と答えた男性は71.8%に上ったが、女性は45.0%。女性の実に55.0%は、「男性のパートナーも友人も欲しいと思わない」と答えている。「女友達がいればそれで十分、男性の面倒を見るのはもうこりごり」。それが高齢女性の本音かもしれない。
 「夫婦仲良きことは美しきかな」。しかし、「愛妻家」の陰に「妻依存」のリスクが隠れていていることに気づき、家族以外の「つながり」を意識的に作る心構えも必要ということだろう。