2015年7月4日 東京新聞社説
維新の党の安全保障法制の独自案は政府案との隔たりが大きく、与党側が法案の実質的修正を受け入れるか否か不透明だ。「違憲」と指摘される政府案の採決に手を貸すだけにならないか、心配だ。
維新の党はきのう、政府が提出した安全保障法制関連法案の対案となる独自案を自民、公明、民主三党に示し、安倍晋三首相は衆院特別委員会で「党と党でしっかりと議論されることを期待したい」と、与党と維新との修正協議入りへの期待感を表明した。
維新の独自案は理解できる部分もある。例えば、政府案で「存立危機事態」での行使を認めている集団的自衛権である。
維新案はこれを認めず、日本有事以外で自衛権の行使ができるのは、日本防衛のために活動する外国軍が攻撃され、日本も攻撃される明白な危険がある「武力攻撃危機事態」に限るとしている。
憲法で認められた個別的自衛権が行使できる範囲を見直すことで対応しようとしたのだろう。
個別的自衛権の安易な拡大には反対だが、実際に攻撃される明白な危険を武力行使の要件とすることは、日本の存立が脅かされるとか、国民の生命、自由、権利が根底から覆されるといった政府案の曖昧な要件よりはましである。
また、外国軍に対する後方支援でも「周辺」という地理的限定や「後方地域」「非戦闘地域」という概念を維持するのも妥当だ。
政府案を「憲法違反」と指摘した小林節慶応大名誉教授らが「個別的自衛権の範囲内に収まっている」と、維新案を「合憲」と評価していることも首肯できる。
政府、維新両案の隔たりは大きく、与党側が実質的な法案修正に応じるのは難しいだろう。にもかかわらず、維新との協議に前向きなのは政府案の早期成立に向け、維新から協力を得る狙いがある。
維新が審議拒否や採決を欠席しなければ、政府案への賛成が得られなくても、与党単独の強行採決という批判は避けられるからだ。
維新は今国会で、野党が「一生派遣の人が増える」として反対している労働者派遣法改正案の採決に応じ、結果的に、衆院通過に協力した経緯がある。
憲法学者の多くや、世論調査では国民の過半数が「憲法違反」と断じる政府の安保法案である。
集団的自衛権の行使や戦闘現場近傍での後方支援という「違憲」部分の修正を勝ち取ることなく、政府案の採決に手を貸すだけであってはならない。