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病棟の、自分だけのローカルルールなんだけれど、電話をかけるときに、これから話す内容の「タグ」みたいなものを宣言してくれるようにお願いしておくと、案外上手く物事が回る。タグはたとえば、「急変です」「報告だけです」「指示の確認です」「書類を書いてもらいたいのですが」とか。
最初にこういう宣言をする、というルールにするだけで、電話を受ける側の覚悟が決まるから、挨拶を聞く数秒間が、ずいぶん楽になる。重要度の高いタ
グ、たとえば「急変です」みたいなタグなら、それを聞いたその時点で、医師の行動は「病棟に行くこと」が全てになるから、タグを聞いたら、もうそのあとの
内容は、聞かなくても行動できたりする。
タグというルールを導入すると、電話をかける側もまた、自分がこれから話す内容は、果たしてどのタグに該当するものなのか、考える必要が発生する。
タグが決まれば、電話をかける相手に行ってほしいことだとか、必要な情報というものが、ある程度自然に決まるから、会話の要点が定まりやすいような気がす
る。
自分がこれから話す内容を、話す前に理解しておくことは、けっこう難しい。言葉というのは、声に出して初めて理解できるところがあって、「会話しな
がら考える」人の会話は、それでもやっぱり伝わりにくい。理解というのは、やり方を教わらないと難しくて、「もっと要領よく」とか、「要点だけ述べて下さ
い」みたいに檄を飛ばしても、問題は解決しない。
「タグ」はごく簡単なルールの割に、電話を受ける側の快適さは、けっこう上がる。こういうのもたぶん、理解のしかた、考えかたの、一つのやりかたに
なっているのだろうと思う。
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