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たいした旅行はしていないけれども、なかでもドイツ人は底抜けにやさしかった。 どこで買い物をしても目を合わせてハイと呼びかけて、チュスと言ってちいさく手を振って、話しかけたら私のへたくそな英語をいっしょうけんめい聞いてくれた。 彼らは言った。日本人?よく来たね、どうか楽しんで、ガール。私はとうに、もしかすると一度も、ガールなんかじゃなかった。でも彼らはそう言った。 大きい駅のぴかぴかのガラスの扉のそこにあることがわからなくて頭を強打したら通行人が何人もわらわらと寄ってきて、誰も私を笑わなかった。 ガラスが透明でよくないねと彼らは言った。とても悪いガラスだねと言った。そうして正しい扉をひらいて私がそこを過ぎるまで手で押さえて、目が合うとにっこりと笑った。そうして言った。グッドラック、ガール。 レジスタの人が英語がわからないと、おいツーリストだぞ、英語わかるやついるかと叫んで、裏から別の人が走ってきた。私の買い物にそんな価値はないのに。 都市と都市をつなぐ電車に乗ってアナウンスに耳をそばだてていたら、向かいの席の老婦人が手振りで私の目的地を訊き、こたえると泣きたいような善良な笑顔で、着いたら教えてあげると言うのだった。だから安心して景色を観ていなさいと。せっかく美しいのだからと。なんのことばで話していたか今でもわからない。 そのように話すと在独の長かった知人はかなしそうに笑い、彼らはあなたを好きだったんだねと言った。彼らは清潔を保ち努力をしている生真面目な人が好きなんだよ、そうでなかったら、少しも助けないよ。
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