発達障害 安易に判定せず、個性を見つめて
従来の知的障害に比べ軽度の、あるいは知的能力はあるが人間関係の結び方などに困難を示す子どもたちを「発達障害」としてとらえる見方が教育・医療関係者に広まっている。
しかし、高岡健著『やさしい発達障害論』は、わが子が平均から外れることへの過剰な恐れと、マニュアルに基づいた過剰な診断とで、水増しされたレッテルが張られているという。「学校の病理が、子どもの病理であるかのようにすり替えられ」「発達障害者、軽症の知的障害者が、『自立』に向かって駆り立てられている」との問題意識だ。
また、昨年4月、「特別支援」という理念と制度の教育が始まった。しかし杉山登志郎著『発達障害の子どもたち』は「現場は混乱しまくっている。これまでの特殊教育軽視の深く重いツケ」だと見る。高機能広汎性発達障害などの言葉が、青少年の犯罪とともにクローズアップされたことについても、専門医を受診した比較的重症の例でも「95%以上は触法行為とは無関係」であり、早期に診断し、虐待やいじめなどから守ることなどで犯罪予防ができるという。「発達障害は、発達過程の凹凸。個々の子どもと向かいあう時間をたっぷりととるべきだ」
茂木俊彦著『障害児教育を考える』は、それぞれの子どもの「発達権」を強調する。「教科書的な知識を目の前の子どもに当てはめてみて『読んだ通りだ』と確認するにとどまるならば、実践に役立たない。一人ひとりの子どもと障害について、いろいろな角度から検討して、臨床的・実践的な理解を深めていくこと」が大切だという。
榊原洋一著『脳科学と発達障害』を読んでも、脳の働きと症状は単純に結びつかないと実感する。安易な判定に飛びつかず、目の前の子どもを、落ち着いて見つめることが求められている。
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高岡健著『やさしい発達障害論』 児童・青年の精神医学者である著者は、自己責任を求める政治経済の風潮の中で、社会の知的障害へのまなざしが変容し、理解するというより、むしろ分断線が、幾重にも引かれようとしているという。(批評社・1575円)
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杉山登志郎著『発達障害の子どもたち』 膨大な新患の待機リストを抱える児童精神科医が、訪れる障害児の親たちの誤解と偏見に危機感を抱いて書いた。症例を通して、治療や教育に患者個別の配慮をすることが必要だと訴える。(講談社現代新書・756円)
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茂木俊彦著『障害児教育を考える』 教育心理学者が特別支援教育について、条件整備の状況はお粗末と批判しつつ、通常の教育を含む学校教育の全体を、スロー・エデュケーションへと変えていくための絶好の契機にすべきだと説く。(岩波新書・735円)
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榊原洋一著『脳科学と発達障害』 脳機能の動きを画像化する検査方法は、子どもたちの脳内で起こっていることを、どこまで研究できているのか。神経学医が、過信を避けつつも、治療、教育、訓練に役立てられる可能性を解説する。(中央法規出版・1260円)