「ブライトバートはオルト・ライトのプラットフォームだ」とバノンは言う。
オルト・ライト(Alt-Right)はオルタナティヴ・ライト(今までとは違う右翼)の略。日本では「オルタナ右翼」と呼んだほうがわかりやすいかもしれない。キリスト教福音派や白人至上主義、銃武装主義者、リバータリアンなどの従来の右派とは違う、インターネット時代の右翼のことだ。
オルト・ライトという言葉を一般の人が初めて聴いたのは予備選が始まったばかりの2015年7月。まず、Cuckservative(クックサヴァティヴ)という謎の単語が突然、SNSにあふれたのだ。
共和党の大統領候補者たちの写真にクックサヴァティヴと書いたコラージュ(ミームと呼ぶ)が拡散された。たとえば「移民がアメリカの経済的繁栄を築いてきたのです」と語るジェブ・ブッシュに「クックサヴァティヴ」と書かれている。
「アメリカを犯して、メキシコさん」とブッシュが言っているミームもある。エリック・エリクソンなどの保守主流派のジャーナリストにも #Cuckservative というハッシュタグ付きのツイートがいっせいに飛ばされた。
最初は何のことだかわからなかった。だが、クックサヴァティヴという言葉を使うアカウントは必ずトランプ支持を表明していた。
7月29日、「ワシントン・ポスト」紙がその正体を解明した。
まず、クックサヴァティヴは、カッコウ(鳥)とコンサヴァティヴ(保守)の合成語。カッコウは他の鳥の巣に卵を産んで育てさせることから、英語のCuckooには「妻を寝取られる夫」の意味がある。だからクックサヴァティヴは「寝取られ保守」という意味になる。
誰に寝取られるのか? リベラルやマイノリティだそうだ。つまり、不法移民やイスラム教徒に寛容な共和党員に対する攻撃だったわけだ。
「これは共和党や旧来の保守に対する反乱なんです」
「ワシントン・ポスト」紙の取材に対してクックサヴァティヴ運動の参加者の一人、リチャード・スペンサー(78年生まれ)はこう答えた。彼に言わせるとトランプ以外の共和党はみんなクックサヴァティヴだという。でも、反乱って、誰の?
「アイデンティタリアンたちの反乱です」
アイデンティタリアンというのは、人種や民族的アイデンティティを何よりも重要とする……まあ、白人至上主義者が自分のことを呼ぶときの名前だ。
スペンサーは会長を務める「ナショナル・ポリシー・インスティテュート」という団体で、知能指数において白人が最も優れているという「人種的事実」を研究している。
「この運動を、私はオルト・ライトと名付けました」
スペンサーは「オルタナティヴ・ライト」という保守系サイトの主宰者でもある。ちなみに筆者はクリーブランドの共和党大会の会場の外でスペンサーと一瞬だけ話している。「アメリカをもっとレイシストに」と書いたプラカードを持って公園に座っていたのだ。
レイシストにしてはスーツを着て小奇麗なので「それ、もちろんジョークだよね?」と尋ねると、彼は「いや。本気だよ。」と微笑んで「アメリカはもっと人種差別的になるといい」と答えたので、やっぱりジョークだと思って通り過ぎてしまったが、ネットで写真を見て彼だと知った。