"文部科学省の下村博文は29日午前、東京五輪・パラリンピック調整会議で、メーン会場となる新国立競技場の整備計画を報告し、建設費高騰の原因となっている、イラク出身の建築家、ザハ・ハディドのデザインを維持することを明らかにした。建設費は当初予定を900億円上回る2500億円に達する見込みで、来月に改めて報告する。水面下で計画の変更を巡る綱引きが激化していた。
読売巨人軍が、東京ドームから新国立競技場に移転する――。建設費の高騰が問題となる新国立競技場を巡り今年4月以降、こんな情報が永田町を駆け巡った。東京五輪後にプロ野球やJリーグの人気チームを誘致して収益性を高めるという。10月の着工が迫る中、読売新聞グループも巻き込み、ぎりぎりの攻防が繰り広げられた。
結果としてはこの案は採用されなかったらしい。
新国立競技場の建設予定地に、最初に競技場が建ったのは1924年だ。収容能力3万5000人の明治神宮外苑競技場が整備され、竣工に合わせてスタートしたのが、明治神宮競技大会である。
主催したのは国家神道をつかさどる内務省だ。日本古来のしきたりに従い、神々の前で体力に恵まれた若者が技を競い、畏敬と感謝の念を表す神前奉仕の大会と位置づけた。明治神宮競技場は国家神道と密接につながった施設だったわけだ。
太平洋戦争の戦況悪化に伴い大会は中止され、敗戦を機に神道の色彩は消えた。だが、戦後に国立競技場に建て替えられても、国家を代表する正当性は受け継がれた。1964年の東京五輪ではメーンスタジアムとして使用され、日本の戦後復興を世界に誇示した。
そんな国家との濃密な関係を背景に、この地に建つ競技場は、「日本のシンボル」として広く人々に認識されるようになった。新国立競技場が「巨人軍のシンボル」になることは、政府にとって容認できることではない。
ということらしい。
一般的な大型スタジアムの年間維持費は数億円程度なのに対して、新国立競技場はその規模と豪華さから、1桁多い50億円以上に達する見込みだ。一方で収入はどうか。現行計画では、数万人を動員できる人気アーティストのコンサートで1回約5000万円、サッカー日本代表クラスの試合で同2800万円。だが、それほど集客できない陸上競技大会では1桁下がる約100万円。学校の運動会には約50万円で貸し出す。"