6日開票のロンドン市長選で野党労働党議員でイスラム教徒のサディク・カーン氏(45)が当選し、欧米の主要な首都で初めてイスラム教徒の市長が誕生した。難民危機やテロを受けて欧州各国で反イスラムの機運が広がるなか、ロンドン市民は「多様性」を重視する姿勢を示した。
「生い立ちにかかわらず全ての市民にチャンスを与える街にする」。7日未明、当選したカーン氏は力を込めた。ロンドンのモスクに通うアフガニスタン系移民で会社員のラフラーさん(35)は「イスラム教徒への風当たりが強まるなかで大きな励みだ」と喜ぶ。
米CNNは「西洋社会における重要な節目」と評し、ドイツやフランスのメディアも軒並みトップで報じた。
欧州で広がるイスラム嫌悪の声をはねのけカーン氏が選ばれた背景には、ロンドンが育んできた多様性の歴史がある。
英国の首都としてロンドンは旧植民地や欧州連合(EU)各国から多くの移民を受け入れ、経済成長につなげてきた。2011年の国勢調査によるとロンドン人口の12.4%はイスラム教徒。今やロンドン人口の3分の1は英国以外の生まれとされ、市長選の投票用紙はアラビア語やトルコ語など18言語に訳された。専門家たちは「移民社会が孤立しがちなパリやブリュッセルに比べて、ロンドンは多様な価値観が定着した」と指摘する。
カーン氏自身が「新たなロンドン人」を体現する。パキスタン系移民でバス運転手の父親を持ち、人権派弁護士出身。飲酒はせずイスラム教徒としての戒律を守る一方、同性婚を支持するなど政策は徹底してリベラルだ。「私はロンドン出身の英国人であり、欧州人であり、アジア人であり、父親である。宗教は私の側面の一つだ」というカーン氏は、多様な文化や宗教が混じる都市に住む人々の心をつかんだ。
対立陣営の保守党はカーン氏と過激派組織のつながりを示唆する中傷攻撃をしかけたが、有権者だけでなく与党内からも「醜い」と批判が噴出。かえってカーン氏の支持を高める結果になった。
一方、同時に実施された地方選では活性化する首都ロンドンと、経済が低迷する地方との溝が目立った。労働党はスコットランドを中心に大きく議席を減らし、「移民に職を奪われている」などと反移民やEU離脱を訴える英国独立党が議席を伸ばした。