毎日数十億円単位で集まる東日本大震災の義援金。著名人や大企業の募金額が景気よく発表されていく一方で、被災者へ届く様子は報じられない。我々の手元を離れた後の義援金の行方を追った。
募金詐欺もやりたい放題
新宿駅西口の雑踏の中、歩道を挟んで2列に並び10人ほどの学生の一団が声を張り上げていた。
「私たちは東北出身の学生です! 東北関東大震災への義援金にご協力お願いします!」
行き交う多くのサラリーマン、主婦が足を止め、硬貨を箱に入れたり、中には1000円、2000円を入れる人もいた。
いま日本中に募金を呼びかける声があふれている。東日本大震災の被災者に対する義援金は史上最高額になると予測される。
しかし「いったいあの金はどこにいくのか、本当に被災者に届くのか」—という疑問を感じている向きは多いのではないだろうか。
もちろん多くは善意のものだが、なかには悪事をはたらく者もいる。警察庁に寄せられた義援金詐欺の相談件数は3月29日の時点で158件にも上った。
「相談は1日10件ペースで増えていて、被害届もすでに10件受理しています。『震災で不足している注射針を送るために金やプラチナを集めている』と老女を騙して指輪2個を詐取したケースなど、さまざまな詐欺が横行しています」(警察庁関係者)
募金詐欺が横行するのには、こんな事情があった。
「実は募金には法的な規制がほとんどありません。どこからも許可をとる必要はないし、領収書も発行する必要もない。収支報告を公表している団体もありますが、ほとんどはしていない。ごまかそうと思えばいくらでもごまかせるのが実状です。
証拠が残らない街頭募金はやりたい放題です。『NPO緊急支援グループ』を名乗る自称NPO団体では、アルバイト雑誌で集めたバイトを使って、'04年の10月~12月のたった3ヵ月で2500万円も集めました。だから募金詐欺はなくならないのです」(『こんな募金箱に寄付してはいけない』の著書があるジャーナリストの筑波君枝氏)
本誌も上野駅前で、ある団体を見つけた。中年の男女二人が「日本ボランティア会」を名乗る団体の募金だ。記者が使途を尋ねると、「すでに被災地に100万円を届けました。明日は岩手県山田町に物資を届ける予定です。事前に役所と連絡をとって運びます」との返答だった。
しかし岩手県と山田町の災害ボランティアセンターに確認したところ、そうした連絡は入っていないという。どういうことかと同会に問い合わせたところ、「担当者は昨日から募金を渡しに被災地に入っています」と答えたが、その後、和田秀麿会長が出てきて「山田町には当会のスタッフの実家があり、そこに物資を運びました。避難所には行っていません」などと二転三転。少なくとも山田町の被災者に募金が届いていないことは間違いない。
全額、被災者に届くのか
支援の呼びかけ人が有名人だからと飛びつくのも考えものだ。
歌手のGACKTが設立した『SHOW YOUR HEART』基金は当初振り込み先に民間企業の口座を使ったことで疑惑を持たれた。
「実はGACKTは、新潟県中越沖地震のときにもチャリティを謳ったアクセサリーを販売して7000万円以上稼いだのに、寄付はたった200万円という・前歴・がある。今回も約1億円の募金を集めたと聞いていますが、被災者のもとに全額届くのか不明です」(所属事務所関係者)
この件に関して所属事務所から返答はない。
自治体職員による・中抜き・という事態も起こっている。福島県A市に支援物資を届けた都内勤務の医師の体験談だ。
「南相馬市の市長の呼びかけに応じて、大量のカップラーメンをA市役所に運んだのです。すると職員が『うちも食べれてなくて』と言いながら、自分の分を箱単位で抜いていった。唖然としてしまいました」
極限状態の彼らを責める言葉は持たないが、現実だ。
他方で、しっかりと善意のもとに義援金を募り、寄付や支援を行う人々がいる。
「いわきのために何かをしたいと、23日から活動を始めました。今は東京にいますが、将来子供はいわきで育てたいと思っていました。集まったお金は全額、いわき市の災害対策本部に振り込む予定です」(福島県立磐城桜が丘高校卒業生)
こうした草の根の募金の他、日本ハムのダルビッシュ有投手が5000万円を日本赤十字社(以下、「日赤」)に、安室奈美恵が5000万円(日赤へ)、ファーストリテイリンググループの柳井正代表取締役が10億円(日赤へ)、三菱商事が4億円(寄託先未定)、など著名人や大企業からの義援金が話題になっている。
さらにマスコミなども窓口を設置して一般から広く義援金を募っており、多額の金を集め、各媒体で発表されている。読売新聞社が約8億円、朝日新聞社が13億円、日本テレビが7億円、フジテレビが13億円、テレビ朝日が12億円、TBSが11億円、NTTドコモが7億3631万5907円など(3月27日~30日現在の公表額)。
寄託先は、日赤、NPO法人ジャパン・プラットフォーム、岩手県、宮城県、福島県など様々だが、なかにはauなど寄託先未定のまま募金を開始したところもある。
この他、県や市町村に直接振り込まれてくる義援金もある。震災対応でほとんどの自治体では未集計だが、岩手県には10億6875万円(25日現在)、茨城県には3億8000万円(28日現在)、いわき市に1億8000万円(29日現在)が寄せられている。
義援金の多寡はメディアでも大きく取り沙汰されるが、集められた義援金がどこにいくのか。
前述したような詐欺的なものを除けば、義援金の行く先は大きく分けて3つ。
1つは日赤などから被災者それぞれに現金で分配されるもの。
2つ目は現地の復興支援活動団体へ寄付され、物資や活動経費として使われるもの。
3つ目は被災地の自治体に直接送って、被災地の復興に充てられるものだ。
最も信頼性の高い募金団体として義援金の半分以上を集める日赤には、30日現在で約594億円がプールされており、今も1日10億円単位で増え続けている。募金のペースは阪神・淡路大震災の際の約2・4倍で、このままいけば単純計算で4000億円を突破する勢いだ。
義援金が届くのは当分先
義援金配分委員会が組織されない以上、金は被災者に流れない しかし実はこの金が日赤から被災者のもとに届くのは当分先になるという。被災地が多数の県にまたがっているせいだ。
義援金は、被災した都道府県が設置する「義援金配分委員会」が決定する被災状況に応じた配分基準にしたがって、被災者に分けられるのが通例。
阪神・淡路大震災のときは、被災1週間後の1月25日に前身団体にあたる義援金募集委員会を兵庫県が設置した。しかし今回は被災地が複数県にわたり、被災状況もつかみきれないため、どこがいつどのように委員会を組織するか目処も立たない状態だ。
「現在検討されているのは、配分委員会を、被災地全体、被災県、被災市町村の3段階で開いて義援金を分配するかたちです。これなら県や市町村に直接寄せられた分の義援金をその自治体で配分することができます」(茨城県保健福祉部福祉指導課担当者)
'04年に発生した新潟県中越地震で義援金配分委員会会長を務めた関西大学の河田惠昭教授が語る。
「新潟県中越地震は10月23日に起きました。雪が降る前に配分したい、と目標をたてました。義援金の配分というのは被災状況に応じて設定するので、被災者へのり災証明の発行が終わらないとできず、そのために時間がかかった。今回私が心配しているのは、福島原発の混乱のせいでり災証明の発行が相当遅れるんじゃないか、ということです。
本来り災証明の発行は災害後1ヵ月で始まるものですが、今回は難しいかもしれない。第一次の配分は最速でも6月頃、現実的にはもっと後でしょう」
せっかくの義援金の配分が自治体の機能停止で遅れるのはなんとも歯がゆい。これに対し、寄付金のほうはすでに自治体やNGOの物資の購入や輸送などのための資金として活用されている。
義援金を取りまとめ被災地で活動するNGOに活動資金を割り振るNPO法人にジャパン・プラットホームがある。24日現在で18億6667万7724円を集め、難民を助ける会、国境なき子どもたち、などのNGOに助成している。普段の募金は使途となる災害地を特定していないが、今回は義援金の全額を東日本大震災に充てる。
自治体への募金については、「ふるさと納税」を利用する手もある。端的に言うと、自分の払う住民税を、被災地に寄付できる仕組みだ。寄付の領収書をもって確定申告をすると、寄付金額から5000円を引いた分住民税が控除される(所得に応じた上限はある)。
被災者が本当に必要としているタイミングで、必要な額の義援金を届けたいものだ。