「性格診断テスト」

「性格診断テスト」は、志望企業にエントリーする時や、1次面接の前後など、選考の初期に企業が実施する一種の適正テストです。リクルートが提供しているSPI(Synthetic Personality Inventory)や日本エス・エイチ・エルの「玉手箱」などが有名ですね。
■ライスケールに注意
 単なる性格テストと軽視しないほうがいいかもしれません。ある企業の場合、会社をすぐにやめてしまった人の回答を分析して、それと似通っている回答をした学生を採らない、といった使い方をしているケースもあります。それほど性格診断テストが重要視されてきているということでしょう。
 判断基準もわからないまま、機械的に自分の性格が判断されるわけですから、不安になるのもわかります。そんな学生が適性テストを受けると、「なんとなく良いほうの性格」、いいかえると「社会的な望ましさ」に寄った回答を選ぼうとするのが自然だと思います。しかし、そこに落とし穴があります。
 たとえば、ありがちなのが「自分はウソをついたことがない」という質問です。社会規範からいって望ましいと思われる「はい」という回答をしがちですね。しかし、そんなことはほとんどありえないので、逆に「ウソポイント1点」が加算されてしまいます。ほかにも、「人を嫌いになったことがない」など、性格診断テストの中には、いくつかライスケール(ウソ測定器)が紛れ込んでいます。
 「この学生は自分の性格を盛っていないか」「答えていることが信用できるか」を判断するのです。その数値が一定値を過ぎると、「回答の精度に問題あり」と判断されて、そのほかの回答を含め結果全体に「信用できない」といった烙印(らくいん)が押されてしまいます。
 また学生は、受けたい企業の「求める人物像」を想像し、合格するために回答をあわせようという努力をする傾向があります。「この会社はベンチャー企業だ。だからきっと、元気で自由な発想力のある人がほしいに違いない」という思い込みです。しかし、実際に企業が求める人物像がどんなものか、把握するのは至難の業です。
 ベンチャー企業だからといって、「自由闊達」で、「進取の気性に富む」自分を演じようとすると落とし穴にはまります。ベンチャー企業はその起業の過程では挑戦的だったかもしれませんが、一度目標を定めると、あとは強烈なリーダーシップのもとで真っすぐ進むことが要求されます。求められる仕事は意外に保守的で、ルーティンに耐えられる粘り強さが要求されるケースが多いのです。
 「自分は知的好奇心が旺盛だと思う」。おもわず「はい」を押してしまいますよね。しかし、実は「知的好奇心旺盛」は要注意です。裏返せば飽き性、一つのことをコツコツやれない、入ってもらってもすぐやめるととらえられる可能性もあります。
 こうした定性的な選択肢は、いかようにも解釈が可能です。「明るい性格」といえば聞こえがいいですが、葬儀場で明るく「ご愁傷さまです」と言われても困りますよね。「あきらめが悪い」のはイメージが良くないですが、「忍耐力がある」と判断されるかもしれない。「常識には縛られないほうだ」といえば格好良いですが、「扱いづらい」ととらえる人もいる。
 こうした質問は、他の回答との関連性で「正解」になったり「不正解」になったりします。「好奇心旺盛」的な答えが多すぎると「好ましくない」と判断される。つまり、自分で制御するのは難しいのです。もっと言えば、企業の求める人物像に自分をあわせることは不可能に近いのです。
 数学や常識問題は多少、対策本などで勉強したほうがいいかと思いますが、性格診断は、むしろ本は読まないほうがいいでしょう。一つ一つの質問の回答で性格傾向を判断するわけではなく、他の回答と比べながら、実際には何を測っているのか受験者に悟られないように作ってあります。虚心坦懐(きょしんたんかい)な気持ちで、正直に答えるのが一番です。というよりそれしか方法はありません。自分を演じようとすると、その他の質問で矛盾がないか考えすぎてしまい隘路(あいろ)に迷い込んでしまいます。テストはこうした矛盾をするどく突いてきます。
■ますます増える傾向か
 この適性検査は今後、増えていくでしょう。SPIや玉手箱だけでなく、さまざまな会社から雨後のたけのこのように出てきています。
 最近の流れとして、ビッグデータや人工知能(AI)を使った採用手法が注目を集めています。人間の判断はどうしてもブレが生じてしまいます。採用に限らず人事評価でも、上司が自分に似たタイプの人の評価を高くしてしまう傾向がある、というのが研究でも証明されています。そのため、採用に科学的な尺度を入れよう、という動きがさかんになっているのです。私も、面接をたくさんやるくらいだったら、適性検査の精度を上げた方がいいと思います。
 性格診断で落とされる、というのはまれなケースだと思いますが、応募数の多い企業の場合は、やむなく「足切り」の手段にするところもあるようです。必要以上に性格診断を恐れず、ただし矛盾に陥らないように、自分の直感に従って回答しましょう。