創造と狂気

ある日、弟子のひとりがエスキロールに尋ねた。「先生、理性と狂気の境界を見分けるための基準を教えて下さい」
 翌日、師はその弟子を二人の人物とともに食卓に招いた。ひとりは身なりも言葉遣いも完璧な人物。もうひとりは騒々しく、自分にもその将来にも自信満々な人物だった。
(略)
 「自分の意見を言ってごらん。先ほど一緒に食事をしたうちのひとりは狂人、もうひとりは賢者だ」
 「ああ。こんな問題なら難しくありません。賢者は、あの上品で申分のないお方です。もうひとりの方はそそっかしく、うんざりです。即刻入院させるべきです」
 「ほお、間違っているね。きみが賢者だと言った男は自分を〈父なる神〉だと思いこんでいる。自分の役割に相応しい控えめで品位ある態度をとっている。シャラントンに入院中だ。きみが狂人だとした青年はフランス文学の栄光のひとりだと考えてまちがいない。オノレ・ド・バルザック氏だ」
創造と狂気 フレデリック・グロ