認知症の2割を占めるレビー小体型認知症。初期症状はうつ病や統合失調症と見分けがつきにくい上、抗精神病薬などに過敏性がある。プライマリケア医はその特徴を知って治療に当たることが大切だ。
「外科医のメスさばきと内科医による薬剤の用量調節は同じ。1mgの違いでDLBは劇的に改善する」
「レビー小体型認知症は、うつ病や統合失調症、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病と誤診されやすい。薬剤過敏性があることを知らずに、違う疾患に対する薬物を漫然と投与すると、悪化させてしまう危険性がある」。
レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)は、(1)進行性で変動する認知機能の低下(2)具体的な内容のある幻視(3)パーキンソン症状─の3つが中心症状だ。最近では、認知症の中でアルツハイマー型認知症(Alzheimer’s disease:AD)に次いで2番目に多く、認知症患者全体の20%を占めるとされている。ただ、「頻度が高い割には一般医の間でまだ認識が低いのが現状だ」。
初期に表れにくい記憶障害
病理学的に見るとDLBは、大脳や脳幹におけるαシヌクレインを構成成分とするレビー小体の出現や、神経細胞の脱落を特徴とする。ただX線CTやMRIを行っても、多くは軽度の脳萎縮しか認められない。さらに認知症といえば「もの忘れ」が主な症状と思われがちだが、DLBにおいては認知障害よりも幻覚や妄想が先行して表れやすい。このため、うつ病や統合失調症と診断されるケースが少なくない。
2002~08年にかけて、筑波大附属病院精神科に入院した50歳以上のDLB患者55人のカルテから、初期診断病名を後ろ向きに調査。結果、半数近くの患者が初診時にはうつ病と診断されており、DLBと診断された患者は4分の1に満たなかった(図1)。「高齢発症のうつ症状や妄想を診たらDLBの可能性を念頭に置き、病歴聴取や経過観察をより丁寧に行う必要がある」と高橋氏は話す。
加えて注意しなければならないのは、DLBに薬剤過敏性がある点だ。「高齢者のうつ症状や食欲低下に対し、スルピリドやハロペリドール、リスペリドンなどの薬剤がよく処方されるが、身体の硬直や傾斜が現れたら、DLBに伴う薬剤性パーキンソニズムを真っ先に疑ってほしい」と河野氏は訴える。同氏によれば、抗ヒスタミン薬を含むかぜ薬を服用後、眠気の副作用が強く表れたことで、DLBに気づくケースもあったという。
早期発見の鍵は大声の寝言
では、プライマリケア医はどのように診断・治療すべきだろうか。
「認知症は治らない疾患と思われがちだが、DLBは早期に発見し適切に治療すれば、長期にわたって症状をコントロールできる」と、メディカルケアコート・クリニック(横浜市青葉区)院長の小阪憲司氏は語る。
前述の3つの中心症状のうち、(1)の「認知機能の変動」とは、日によって、あるいは1日の中でも時間によって、注意力が低下したりぼーっとする状態があること。(2)の「幻視」は、「床の上を虫がはっている」「ベッドに知らない人が寝ている」など、他人には見えないものがはっきりと見えているような患者の訴えが特徴。(3)の「パーキンソン症状」は、動作緩慢や筋肉の強張り、小さい歩幅をきっかけに発見されることが多く、「手の震えは比較的少ない」(小阪氏)。
診察時にパーキンソン症状を見分ける方法として河野氏が勧めるのが、患者の肘を他動的に屈伸させること。歯車現象(歯車様筋固縮)と呼ばれる小刻みな抵抗を感じれば、DLBやパーキンソン病の可能性が高まるという。
DLBの早期に表れやすいのは、レム睡眠行動障害だ。「DLBが疑われれば、夜間睡眠中に叫んだり、大きな声で寝言を繰り返すことがないかどうか、患者の家族に聞いてみるといい」と河野氏はアドバイスする。
同氏はこれらの特徴的な症状をスコア化した「レビースコア」を独自に考案(表1)。DLB患者とAD患者で比べたところ、ほぼ全てのAD患者がレビースコアは2点以下だった。同氏は「レビースコアはDLBとADの鑑別に有用」と話す。
また、頑固な便秘や尿失禁、起立性低血圧といった自律神経障害も、DLBを疑うポイントだ。「『雲の上を歩いているよう』といった特有の浮遊感を訴える患者もいる」(高橋氏)。なお、画像検査上は、SPECTによる後頭葉の血流低下やMIBG心筋シンチグラフィーでの取り込み低下が特徴とされる。
表1 河野氏が考案した「レビースコア」
認知症が疑われる患者に対し、DLBに特徴的な症状を本人や家族から聞き逃さないために用いる。点数が高いほどDLBの疑いが濃厚になる。同氏が別に考案した「アルツハイマースコア」と合わせて確認すれば、アルツハイマー型認知症(AD)とレビー小体型認知症(DLB)の鑑別診断にも役立つ。同氏らの検討では、ほぼ全てのAD患者において、レビースコアは2点以下だった。
きめ細かい用量調節が鉄則
現在のところ、DLBに対する薬物療法はまだ確立されていないが、3つの中心症状がそろっている典型的なDLB患者の場合、ドネペジル(商品名アリセプト)1.67mg、ペルゴリド(ペルマックス)50μg×2錠、抑肝散2.5g×2包─を1日投与量の基本の組み合わせとしている。パーキンソン症状がなければペルゴリドは使用しない。ただし、ドネペジルは現時点で保険適用外。DLBに対する効能追加については、第3相試験が進行中だ。
「DLBは薬物過敏性があるため、ドネペジルやペルゴリドは少量から始めるのが鉄則。さらに患者個々の症状に合わせて、きめ細かい用量調整を行うことが重要だ」。