小林節インタビュー

――長年、自民党のブレーンとして活動してきましたが、最近は「自民党の議論に嫌気がさした」とおっしゃっています。
(小林節・名誉教授)今回は世襲議員集団の自民党が貴族のごとく「おまえら下々は黙ってろ」と、論議ぬきで押し切って、議会制民主主義が壊され、憲法が壊れてしまった。
30年ぐらい我慢して自民党を説得しようと思ったんだけど、通じないことが分かったんだよね。自民党の勉強会に呼ばれて話をすると、意見が合っているときは、「教授」「博士」と呼ばれるけど、意見が合わないと、俺より若い世襲議員に「小林さん、あんたね、学者に現実が分かるか」と罵倒される。人間として、育ちがおかしいと思ったね。今や世襲議員は自民党の過半数。首相に至っては3世議員、しかも父方、母方とも3代世襲だからすごいよな。
彼らは「どうして憲法は政治家や公務員だけが守らないといけないんだ」と言う。「いや、憲法ってそういうもんです。何よりも政治家以下の公務員を縛るものです」という押し問答を何度もやった。最後は「自分たちが守らなくてはいけないのは認めるとしても、一般国民は守らなくていいのか」という議論になったから、「主権者である国民が憲法をつくったことになっている。作者自体が作品を守らなくていいはずはない」と答えた。すると「そうだ、国民も憲法を守らないといけない」と喜んでいる。全然観点が違うんだよ。この馬鹿さ加減がすごくイヤになってきた。
教授時代には、自民党の幹部職員から電話があって「先生、ちょっと論調を変えていただけると、講演のお仕事とか差し上げられるんです」って言ったんだ俺に。御用学者と一緒にするな、「バカヤロー」と言って電話を切ったんだ。縁が切れる潮時だったんだよ。

――具体的にどのような訴訟を起こすのでしょうか。
来年4月1日から、初めて日本の軍事力が海外で戦争に参加できる危険が具体化する。つまり、来年4月1日から我々は戦後初めて、戦争の危険のある国家に住むことになるわけです。そこで初めて平和的生存権が侵害され始めるんです。平和的生存権は国民全員が持っている。憲法の前文に根拠があり、9条が制度的に保障している。
具体的には、東京地裁に国家賠償請求訴訟を出します。誰でも知っている有名人、それもしかるべき人が原告なら、担当の裁判官も真面目に考える。東京地裁の裁判官はスーパーエリート。自分の学問的良心に照らして違憲判決を出した結果、司法官僚の道を閉ざされたら弁護士に転職してもいい、と思える原告の陣容でやります。
――最高裁で違憲判決が出る可能性はどれくらいあると思いますか。
難しいでしょう。「統治行為論」の問題がある。不文の確立された憲法判例で、戦争と平和など、高度に政治的な国の存立に関わる歴史的決断は、選挙で選ばれていない裁判官は判断せず、選挙で選ばれた国会議員や政府が一時的な判断をし、最終的には主権者の国民が選挙でけりをつけるという考え方です。私の専門領域ですが、その通り行きたい。
最高裁まで争えば4年かかる。4年以内に必ず総選挙が来る。総選挙で勝つために、安倍首相が憲法9条を破壊し、議会制民主主義を破壊したことを国民に思い起こさせる。2016年7月の参院選で、野党共闘の成果が1選挙区でも出れば、やり方を覚えてみんな勢いづく。そうすれば、いつ衆院選が来ても300小選挙区で野党共闘が実現して、4割の得票で8割の議席が取れる。その手段としての憲法訴訟です。私はむしろそっちを念頭に置いて言論戦を戦っているんです。