“ K:草間彌生さん  T:高倉功さん(秘書)  B:ブッククラブ回 B:それでは、ちょっと関係ない事をお聞きしますけれど、   ライヒという心理学者を草間さんはご存じですか?   草間さんのパフォーマンスについて知った時に、   性の革命家と言われたライヒと共通したものがあるのかな、と感じたのですが。 K:聞いたことはありますけど、私はライヒとは何の関係もありません。   だいたい、精神分析みたいなものはもう古くて、ニューヨークでもおよびじゃないし、   日本でもオールドファッションなんですよ。

K:草間彌生さん  T:高倉功さん(秘書)  B:ブッククラブ回
B:それでは、ちょっと関係ない事をお聞きしますけれど、
  ライヒという心理学者を草間さんはご存じですか?
  草間さんのパフォーマンスについて知った時に、
  性の革命家と言われたライヒと共通したものがあるのかな、と感じたのですが。
K:聞いたことはありますけど、私はライヒとは何の関係もありません。
  だいたい、精神分析みたいなものはもう古くて、ニューヨークでもおよびじゃないし、
  日本でもオールドファッションなんですよ。
  ニューヨークでフロイト派の精神科医についたために、絵を描くのがだめになったの。
  なぜかっていったら、フロイト派というのは何もかも全部、分析しちゃうでしょ。
  分析じゃなくて構築するのが私の仕事なのね。
  私がかかった医者は、フロイト派のものすごく優等生なわけね。
  ニューヨークで5~6年受けたんだけど、今考えたら噴飯ものなのね。
  「先生、頭が痛いんですけど」って言ったら、その日朝から何があったかを全部言わせるわけ。
  それを分析するわけ。
  私の悩みって、全部芸術でもって表現したいわけですよ。
  絵を描くでしょ。そうすると「あなたはなぜこう描くんですか」って言って分析する。
  そのために私は絵を描けなくなってしまう。絵がどんどん遠ざかっていくんですね。
  「具合が悪いから助けてください」と言うでしょ。
  そうすると精神安定剤をよこしたりするんです。
  絵を描きなさいとは言わない。薬をくれたり分析する前に、
  それを絵に持っていきなさいとは言わない。
  私がもし医者だったら、「あなた絵を描きなさい」とか「音楽を聴きなさい、作曲をしなさい」とか、
  そういう風に言いますよ。
  フロイト派の療法を受けた人たちは、芸術的に劣等生になっていくと思うんです。
  やってかれないと思うんです。
  フロイト派の医者は、私が絵を描かなくなった状態を、
  「草間さんは治った」って、こう来るでしょ。
  そうじゃなくて、私の場合は作って作って作り上げていくんです。
  だけど精神科医は作るエネルギーがなくてもいいところまで、分析しちゃう。
  だから今の時代を生きていくには、フロイト派だとか、ライヒとかそういうのは消えてほしい。
  火をつけて燃やしてしまいたい。
  だから私は医者を止めたんです。
B:それをご自分で気がついて、抜け出したというのはすごいですね。
K:フロイト派の精神分析を受けたことが、自分の生涯にとって
  一番最悪の事態だったと思ってます。
  だから、それを止めて、自分自身で絵を描き出したわけ。
  網を床にまで描いちゃうでしょ。
  フロイト派の医者は「なんでそんなことするんですか?」って聞くでしょ?
  ただ私に描かせればいいんですよ。
  だから断ち切ったわけですよね。
B:草間さんのお話を聞いていて、昔、ニジンスキーというバレエダンサーが、
  踊るのを止めたとたん狂気に走って、
  若くして死んでしまったことを思い出しました。
K:フロイトは、ウィーンの上流階級の女の人たちのヒステリーを治したって言うけど、
  彼がちょっかい出さないで、彼女たちに筆をもたせたら、
  すばらしい絵を描いたと思うわ。
  フロイト派に大反対です。
  フロイトではずいぶん損した。
  時間の損失だったと思います。
  私そのころお金なかったから、自分の描いた絵で治療費をとってもらったんだけど。
  私は今、精神病院にいますけどね、25年も。
  フロイト派とは違うことをやっているの。
  どこも悪くなくても病院に、いるわけですね。
  なぜかっていうと、頭がめちゃくちゃになった時、
  看護婦さんを呼べればいい、っていう感じなの。
B:お薬は飲んでいらっしゃるんですか?
K:胃の薬とか、風邪薬とかは飲んでます。
  風邪薬を飲むと腰痛が治るから。
  若い頃、ずっと絵を描いてたでしょ。
  だから、負担がかかって腰痛になっちゃったわけですね。
  それを直そうと思って、マッサージ診療とか腰痛を治す専門の所へいくと、
  かえって腰痛になるわけですよ。
  1回行くとベッドの上で6日休んじゃう。
  行かないでいると、自分の体で治るわけですね。
  選択は自分自身にあるということなんです。
  医者ではなくて。
B:それは精神的なものと同じですね。
  医者が患者を、自分は専門だからとコントロールしようと思ったとたん、
  実際には鈍くなって悪くなってしまうという意味では。
T:先生は今では世界的な芸術家ですけど、小さい頃から絵を描いたり、
  紙をちぎったり、いろんなことをしてきたんですよね。
  もう止められなくなるぐらいずっとやり続けていたんでしょうね。
  そこでもし、フロイト派の先生がいたら、
  「やよいちゃん、それだめよ、いけません」と言っていたかもしれません。
  それを先生は、好きにいっぱい描きためて。
  でも厳格なご両親からは絵描きなんかになっちゃいかんと、
  止められていたわけですよね。
K:そう。それで病気になっちゃう。
  止められると芸術がなりたたないわけです。
  なんで、なんで、なんで、では。
B:やはり精神のバランスがくずれた時に、薬で押さえ込んだりすると、
  せっかくのその人の感性を鈍らせてしまう危険性があると思います。
  今のお話は実体験としてお聞かせいただけて、とてもよくわかりました。
K:私の立場を理解していただけたらありがたいです。