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京都大学の図書館で時間雇用職員として働いていた男性を取材しました。東大卒業後、大学院も出ていてイタリア語もできるという高学歴の男性ですが、周りを見ると民間企業で働いている友人が長時間労働で過労死しかねない状況で、こんな働き方をするのだったら安くてもいいから人間らしく働きたいということで図書館の時間雇用職員という形で働いていたわけです。
それがいきなり雇用契約を切られたのです。何年も何年も更新して働き続けてきて、まじめに働いていたのに、実績とかまったく考慮されないで、単に形式的な短期間の契約だからという理由だけで切られたので、彼は訴訟を起こしました。ところが、地裁の判決文では、もともとこのように短期間の契約で賃金も安い仕事は、夫がバックにいる家計補助的な仕事として設定されたもので、そこに自分で好んで就いたのだから仕方がない、男ならきちんとした仕事を探しなさいというようなものだったのです。
原告側は「こんなオヤジの説教みたいな判決を聞くためにきたんじゃない」と怒っていましたが、これはやはり問題です。これでは雇う側が家計補助の仕事だと決めさえすれば、安くて短期の雇用でもいいのだという話になってしまいます。これが正当化されるなら、「この仕事は家計補助的な仕事なんだから、それを選んでいるあなたが悪い」と経営者はみんな言うでしょう。女性は多くの場合、あなたは家計補助でしょと言われて、高度な仕事をしていてもまともな賃金をもらえないで来ていますから、この判決には大きな批判が起こりました。
これは高裁まで言って、結局今度はなんの論評もなく敗訴しているのですが、こういう社会観、労働観、雇用観が、日本の非正規労働者の劣悪さの背景にあるということを鮮明にする判決でもあったのです。
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