「佐野さんも博報堂出身でありながら、最近は電通の仕事がすごく多くなっていましたからね。佐野さんというスターをつくりだし、一方で、森さんをなだめながら、いろんなものを電通に都合のいいように決めていく。高崎さんは会社からそういう役割を命じられていたのかもしれません」

東京五輪のエンブレム盗用問題は、ここにきてようやく佐野研二郎氏だけでなく組織委員会や審査委員の責任を追及する動きが出てきた。永井一正審査委員長、武藤敏郎組織委事務総長、そして、審査委員に無断で佐野氏の修正案にダメ出しをして、最終案を採用決定していたことが発覚した森喜朗組織委会長。
 だが、このエンブレム問題にはもうひとり、その責任を問われるべき人物がいる。それは、やはりエンブレムの審査委員である大手広告代理店・電通の社員、高崎卓馬氏だ。
 ただし、高崎氏はただの審査委員ではない。東京五輪については、招致活動のときから関わり、招致委員会にも名前を連ねている。そして、開催が決まると、組織委員会のクリエイティブディレクターに就任。組織委の役職と審査委員を兼ねる唯一の人間として、広告やビジュアル、音楽に関連するプロジェクトをオペレーションしている。
「エンブレムの公募と審査のスキームをつくったのも高崎さんです。審査委員には、佐野さんと深い関係のある委員が4人もいることがわかっていますが、このメンバーも高崎さんが中心になって決めた。また、委員長の永井さんといっしょに、間口の狭い応募条件を決めたのも高崎さんのようです」(関係者)
 ところが、その高崎氏は佐野氏の仕事仲間。「サントリーオールフリー」のクリエイティブディレクターで、佐野氏の盗作が問題になったトートバッグの発注者サイドの人間でもある。しかも、東京エンブレムが発表されたのは、トートバッグのキャンペーンの最中だった。こうした経緯から、佐野氏が選ばれるよう尽力したのではないか、といわれているのだ。
 本サイトはこの高崎氏の疑惑について、9月2日の記事で指摘していた。しかし、マスメディアではきっと黙殺されるだろうと考えていた。それは、高崎氏の所属する電通が絶対的なマスコミタブーだからだ。
 だが、本日発売の「週刊新潮」9月17日号(新潮社)が『「エンブレム」審査を「佐野研」出来レースにした電通のワル』というタイトルで、この問題を特集記事にしている。
 記事では、審査委員のひとりが「高崎氏が(審査委員の)人選を行った」と証言。しかも、森喜朗会長と武藤事務総長が無断で修正を指示したとしつつ、高崎氏1人だけは早くから修正について把握していたという組織委関係者のコメントも掲載されている。
「彼は、審査委員としてではなく、五輪組織委員会の人間として、エンブレムの修正に携わっていたのです。修正案のデザインをほかの審査委員に報告する役目を負っていたのも高崎氏です」
 しかし、さすがの「新潮」も追及はここまで。問題の本質についてはふれていなかった。「新潮」は「電通のワル」などというタイトルで高崎氏の個人攻撃に終始していたが、実際はそのバックに、電通という組織の五輪利権の問題がある。
 電通は招致活動から東京五輪に食い込み、開催決定後はマーケティング専任代理店に選ばれ、あらゆるマーケティングや広告利権をすべて電通に集約させるよう動いていた。高崎氏はいわば、その先兵的役割を担っていたのだ。
 もし、「新潮」のいうように、高崎氏が佐野氏の案を「出来レースのレールに乗せなければならない理由」があるとすれば、それは高崎氏の個人的な事情ではなく、巨大広告代理店・電通の意志ということだろう。
「佐野さんも博報堂出身でありながら、最近は電通の仕事がすごく多くなっていましたからね。佐野さんというスターをつくりだし、一方で、森さんをなだめながら、いろんなものを電通に都合のいいように決めていく。高崎さんは会社からそういう役割を命じられていたのかもしれません」(広告関係者)
 ただ、電通タブーを抱えたマスメディアにこの先を追及することは不可能だろう。