美味すぎる食い物には「ウラ」がある 果物にホルモン剤投与で甘みを倍増、切り身魚には旨み調味料を注入http://gendai.ismedia.jp/articles/-/387182014年03月31日(月) 週刊現代 :現代ビジネス
「甘い!」「脂がのってる」「濃厚」「口の中でとろける」……グルメ番組で連発される表現の数々。美味しいものを食べるとつい手放しで賞賛してしまうが、その「美味しさ」には、理由があるのをご存じか。
■品種改良では出せない甘さ
酸っぱいみかんと甘いみかん、2種類がスーパーに並んでいたら、誰しもが迷わず甘いみかんに手を伸ばすだろう。
だが、考えてみたことはあるだろうか。みかんって、いつからこんなに甘い果物になったのだろうか、と。
みかんだけではない。いちご、りんご、桃、梨……あらゆる果物で「甘さ」が売りにされ、糖度が表示されたものも増えている。少なくとも20年前には、これほど甘くて美味しい果物は、世に出回っていなかった。これは、品種改良が重ねられた成果でもあるが、じつは、薬品によって人工的に甘さを生み出すことも可能なのだという。
「みかんやオレンジなどの柑橘類は、収穫後2~3週間ほど貯蔵してから出荷します。寝かせることで酸が抜けて糖度が上がるのですが、これだけでは限度がある。柑橘類の糖度を高くするのに、植物生長ホルモン剤が使われていることもあります。これを与えることで、生長を早め、甘さを増す効果があるのです。
また、輸入モノの柑橘類には、酸味を抑えて甘みを出すために、ヒ酸鉛という農薬が使用される。中毒の危険性から日本では使用されなくなりましたが、南米などでは依然として使われているのです」(食品ジャーナリスト・郡司和夫氏)
より甘い果物を求めるあまり、品種改良だけでは補えない部分を薬品に頼るようになっているのだ。
現代の加工食品の多くは、消費者が求める「安さ」を追求するために作り出されてきた。
しかし、消費者は「安さ」だけでは満足しない。「安さ」と同時に「美味しさ」を求める。人の味覚はそれぞれだが、より多くの人が「美味しい」と感じるような味を作り出せないか。もっと言えば、その食品本来の味よりも、わかりやすく、はっきりと感じられる味を作り出すため、あらゆる技術が開発されてきた。
居酒屋や家庭での定番メニュー、ホッケの開きや鮭の塩焼き。口に入れた瞬間、身が柔らかくほぐれ、香ばしい匂いと旨みのある脂がジュワッと口の中に広がる。日本人にはなじみ深いこの味わいは、産地や鮮度と並び、技術によっても生み出すことができる。
「チェーンの居酒屋やスーパーなどで手に入る切り身魚や干物の場合、魚の身に、旨み調味料や大量の脂などが添加されているものが多いのです。剣山のようになった細い針を刺し、その調味液が身に注入される。それによって、脂がのって、身もプリプリ、箸でほぐれやすく旨みのある焼き魚ができ上がるのです」(『ニセモノ食品の正体と見分け方』著者・中川基氏)
調味液とは、食塩水、還元水あめ、でんぷん、リン酸塩、甘味料、pH調整剤、増粘多糖類、化学調味料、酸化防止剤など様々な添加物が調合されたもの。これを注入することで、「本来よりも美味すぎる」魚に生まれ変わる。ホッケや鮭のほか、サバ、サンマ、にしん、タラなど切り身のもの、とくに冷凍で売られているものに、こうした加工が施されていることが多いという。
以前、食材偽装が問題になった際、赤身肉に脂肪分や調味液を加えて霜降り肉に仕上げた加工肉が話題となったが、このインジェクション技術は、魚にも利用されているのである。
■どんな味も化学的に創れる
食品業界には、美味しさを生み出すための「三種の神器」が存在するという。
切り身魚に注入される調味液にも含まれていた「化学調味料」、それに「たんぱく加水分解物」「エキス」の3つだ。
「化学調味料は、グルタミン酸ナトリウムなど化学的に生成された旨みを出すための調味料です。
たんぱく加水分解物とは、大豆の搾りカスやクズ肉などのたんぱく質を、塩酸や酵素などで分解したもの。味に深みを出す効果があります。
チキンエキスやビーフエキスなど、さまざまな種類がある『エキス』は、原料となる食材に化学処理を施して抽出したもの。たとえば鶏なら、死んだ鶏や内臓部分を煮込んで抽出される。これを加えることで、本物らしい風味が出せる。
この3つを組み合わせることで、どんな味でも化学的に美味しく創り上げることができるのです」(前出・郡司氏)
たとえば、市販されているハンバーグなどでも、この三種の神器が巧みに調合され、美味すぎる肉に仕上げられているものがある。
本来、人間は自然に育ったものを美味しいと感じていたはずだが、本物を超える味を求めた結果、日本人の味覚そのものも大きく変化してきている。
「今の日本人は、よりはっきりした味を好むようになったと言われます。甘みやしょっぱさ、脂っこさというのは人間がもともと好きな味ですが、その味に慣れてしまうと繊細な味が物足りなく感じられ、より濃厚なものを求めていく。
最近は、化学調味料などの食品添加物が多く使われている影響で、味覚が劣化してきたとも言えます」(味覚分析などを行うAISSY株式会社社長・鈴木隆一氏)
玄米などに代表される古来の日本食は、じっくり噛むことで甘みや旨みが出てくる繊細な味わいの食べ物が多かった。ところが、添加物で味が演出できるようになると、口に入れた瞬間に食材の味が広がるような、より「わかりやすい味」を「美味しい」と感じるようになってきたのだ。
■味覚は簡単に騙される
そもそも「味覚」とは、甘味、塩味、酸味、苦味、旨味の5つからなる。
「酸味は腐敗、苦味は毒物を感知する危険回避のシグナルとなるため、本能的には拒否反応を示す。一方、甘味は砂糖などのエネルギー源、塩味はミネラル分、旨味は生物に不可欠なアミノ酸を感知するシグナルです」(前出・鈴木氏)
それゆえ、しょっぱさや甘さは、人間が本能的に好む味というわけだ。
何かを食べると、舌にある味蕾という器官でこの5つの味に分解して感知され、電気信号として脳に伝達される。つまり、味というものは科学的に解析することが可能。この仕組みを利用して食品の味を分析することで、理想の味を「三種の神器」のような化学物質を使って再現することができるようになっている。
鈴木氏が続ける。
「長時間煮込まなければ美味しくならないような料理、たとえば牛頬肉のワイン煮でも、成分を分析すれば、人工的に味を再現することは可能だと思います。逆に言えば、人の味覚というのは錯覚を起こしやすいとも言えます」
人間の味覚は騙されやすい。それは、こんな実験でも知ることができる。
ビーフジャーキー、魚肉ソーセージ、ちくわ。この3つの食材を一緒に煮込むと、どんな味が生まれるか、想像がつくだろうか。
正解は、ふぐ。安価な材料から、高級魚のだしもどきができるという。このだしで雑炊を作れば、ふぐちりの締めでしか味わえないふぐ雑炊を超えるほどの味が簡単に出来上がる。
「このふぐのだしもどきで作った雑炊を、材料を明かさずに食べてもらったところ、ほとんどの人が本物だと勘違いします。成分を分析すると、本物のふぐ雑炊とほぼ同じ値が出るからです」(前出・鈴木氏)
ちなみに、ゆで卵の黄身とはちみつで栗の味が、牛乳とたくあんの汁でコーンポタージュの味が再現できるという。これも科学的な分析から本物に近い味のレシピとして考え出されたものだ。
美味すぎる食品を作るためには、「味」だけでなく、もう一つ、欠かせない要素がある。それは「香り」。
生のジャガイモとりんごを、目を閉じて鼻をつまんで食べると同じ物に感じるという。このように、味を感じる際に匂いというものは重要となる。この香りを創る技術も著しい進歩を遂げており、「香料だけでどんな香りも再現できるというのが実情」(前出・郡司氏)だ。
老舗の香料会社、塩野香料の社長・塩野秀作氏は、著書の中でこう述べている。
〈香料に課せられたミッションとは、食品本来の香りを再現すること。さらに、『本物の香りを、本物よりも本物らしく創る』ことなのです〉
たとえば、チキンの香りと一口に言っても、それが茹でたものなのか、炭火焼きなのか、炒めたものか、揚げたものか、など調理法や加熱の具合によっても香りは異なる。こうした微妙な違いも香料で再現することが可能。サイダーなどの発泡感を香りで演出することもできるようになっているという。
「嗅覚には、鼻からすぐに匂いを感じる前鼻腔性嗅覚と、後で口腔から感じる後鼻腔性嗅覚の2種類があります。これを香料で使い分けることもできます。
たとえばラーメンのスープなどは、飲み込んだあとに感じる香りが病みつきになる要素の一つ。人工的にこの香りを作るには、溶けるまでに少し時間がかかるカプセルを使って、香りを残留させるテクニックを使ったりする。また、ノンアルコールの飲料をお酒に似せるのも、後鼻腔性嗅覚をどう刺激するかがポイントになってきます」(食品メーカー関係者)
より美味しく感じさせるために、こんな商品にも香料の力が使われている。最近人気が広がっている、フルーティーな香りでのどごしがさわやかな日本酒。米、米麹、水だけを原料に作ると、どうやっても「フルーティーさ」を出すことは難しいというのだが、どうしてこんなに飲みやすく、美味しい酒ができるのか。
「じつは、香料が使われているのです。日本酒には、酒税法によって香料を添加することが禁じられているのですが、裏技がある。
香りを出す酵母が香料として添加されており、これを使えば原材料に『香料』と表記する必要はなく、違法にもなりません。自然な製法のように感じますが、化学薬品で人為的に突然変異を起こさせた酵母です」(前出・郡司氏)
■技術はどんどん「進化」する
そのほか、身近なところでは、卵焼きや卵サンドの中身など、卵の加工食品にも「卵の匂いがする香料」が使われているケースがほとんどで、外食産業で使われている肉にも、香料が使われているものが多い。もはや、香料が使われていない加工食品のほうが少ないといっていいほどだ。
味と香りはかなりのレベルで、人工的に美味しさを創れるようになっている。さらに、視覚で美味しさを表現するために、こんな技術もあるという。
「濃厚さを、見た目でも演出するために一番よく使われるのは、カラメル色素です。ハンバーグのソースなど、簡単に色を濃くすることができる」(前出・郡司氏)
濃厚さは味だけでなく、見た目も関わってくる。濃い色に、食欲をそそる効果が見られるのだ。また、色素にはこんな添加物もある。
「美味しそうに焦げ目がつくチーズは、キシロースという糖類の添加物で色づけされています。本来チーズは白っぽいものなのですが、黄色くして、焼き目もつきやすくするために添加物が使われる。ちくわなどの焼き目をつけるのにも、このキシロースが使われています」(鈴鹿医療科学大学薬学部客員教授・中村幹雄氏)
味、香り、見た目。本来、自然な製法で作られる食べ物は、ばらつきがあって当たり前だった。これが、今ではばらつきがあるほうが不自然に感じてしまうようになっている。今日の魚はちょっと脂のノリが悪い、この肉は少し硬い、という違いを感じてこそ、本当に美味しい食材に出会った時の喜びも大きい。
しかし、我々はそうした喜びを放棄してまで、「安さ」や「品質の安定」を求めてきた。その結果、「工業製品みたいな食べ物」が食卓に溢れ返る事態を招いたのである。安すぎて美味すぎる食べ物には何か「ウラ」がある、と疑ってみたほうがいい。
「週刊現代」2014年3月21日
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以上真偽の程は定かではないがもう年寄りの私には安くて旨いもので充分である。
子供には食べさせたくないが。
2020-03-18 00:26