菊地成孔

そして、まあ…先ほども申し上げた通り、普通にそのままシーズン10に突入したいと思います。放送時間も曜日も変わりません。金曜深夜0時からです。と、いうわけで…そうですね、先週…先々週かな?…スペシャル・ウィークで、時間の都合でね、カットせざるを得なかったんですけど。まあ、先々週はね…林さんの「レズ疑惑」を晴らさなきゃいけなかったんでね(笑)。時間食っちゃったんですけど。あの時、最後の曲で、「言い出せない人」…「告白できない」、あと「男女の間に友情はあるか?」「友達か、恋人なのか?」「離婚したけど、今は友だち。これでいいのか?」とか、すごい…そういう類型のね、お便りがものすごい多かったんですよ。 で、それに対してワタシが申し上げた事があったんですけど。ま、ま…真ん中、電話なんかもあったりなんかしてね、時間…ラジオ番組ですから、カットになっちゃったんで。ま、もっかい改めて申し上げますけど。要するに、ワタシがそういった方々に申し上げたいのは…現代人ってのは、もうちょっとエロティークになるべきだと思います。やっぱり。で、「エロティーク」なんてね(笑)…しかもワタシが言うとあれですけど。あの…「身体を鍛えて露出の多い服を着て夜の街に繰り出そう!」とかね、「自分のフェティッシュにとことん溺れきろう。」とかですね。「とにかく誰彼構わず口説いてセックスしてしまえ!」…とかね。そういう話じゃなくてですよ。 現代人はとにかくね、もうフェティッシュになっちゃってて、オルガスムスとか…ある種の高揚が、もうみんなフェチに行っちゃってるんで。それこそね、萌え…尽きちゃってるんですよね。「萌える」の方ね。「萌え〜。」の萌えるのほうで、萌え尽きちゃってると思うんで。こう…ヘルシーなエロティカの力が、すごい低下してると思うんですよ。それはね、人間の生きる力と関係してんの。底力と。バタイユって人がいて、ギリギリ19世紀生まれの…まあ、ちょっと頭のおかしい人ですけれども(笑)。彼は有名なね…蕩尽理論っていう…エロティシズム、「越してはならない一線を越すと、最高に興奮するんだ。」っていうね。ま、タブーを破るってことですけれども。 ま、ま…一般的っていうかね、エロティシズム論として、この考え方は…100年は持ったと思うんですけど。もう時代は変わっちゃってますから。まあ、世の中ね…射精やオルガスムスの阿片窟みたいになっちゃってて。しかもそれが、消費行動…エロい物っていうことだけじゃなくて、あと風俗とかそういうことじゃなくて、アイドルを追い掛けたりするような事にも繋がってますし、あと…無消費行動ね。それが全く反転した…一銭も使わず…ワタシが昔「ゼロ円ファン」って言葉作りましたけど、ゼロ円でファンができるっていうような事が…。つまり結局ね、資本主義社会の中で、エロティックである…エロティカである事にね、なんか…罪悪感や無力感が残ってしまうわけ。健全なエロティシズムってのは、やっぱ…生きる喜び…ね。まあ、何て言うんですかね… ワタシは幸いにして、音楽っていう仕事があって…。ま、呪われてるとも言えるんですけど。演奏してる間は、まあ…もうずっとトランスしてるから、とんでもなくエロい。あの…演奏してる間は、もう…全員に性欲感じますからね。ただ、演奏してるからできないわけですよ。ステージ上でおっ始まっちゃったら大変ですからね(笑)。違うショーになっちゃいますから。だから…やらないんだけど。世の中、音楽やったり聞いたりしないって方も…ま、おりますわな。そういう方…そういう方がこの番組聞いてるかどうか、よく分かりませんけども。ま、聞いてたとして。ワタシ、もう…さすがに聞いてる方、お察しだと思いますけど、こうやって喋ってるのも音楽と一緒なんですよ、ワタシ。演奏してるのと変わんないんですよね。で、それはともかく…あのね…いきなりですけど…いきなり言うようですけど、人間関係の中で、最もエロティックでヘルシーな関係ってのは、「お互いがセックスしたいって分かってんだけど、絶対にしない。」関係だと思うんですよ。一生、しないんですよ。ワタシ、これが男女の友情の定義でもいいと思います。21世紀は。 やっちゃったらね…つまりそれはバタイユのエロティシズムで、破っちゃってるわけだから…禁止を。そん時は、すんげえ興奮すると思うんですけど、もう…やった瞬間から、黄金は糞に変わり始めてんの。後はもう糞まみれですよ。バタイユだけに…っていうわけじゃないですけどね。で、今って…「何かがやりたいけどできない」って事が、すごく屈辱的で怨念的に響いちゃう時代だと思うんですね。幼稚っていうかね。「欲しいオモチャがあるのに買ってもらえない」的な…さ。「偉い人が悪い!」的なね。偉い人なんて…悪いに決まってんじゃんね(笑)。でも、まあ…そういうのと全然違うわけ。「オレ達は誤解や勘違いではなく、はっきりとお互いやりたいと思っている。言葉にはしてないけど。だけど…やらない。何故なら、友だちだから。」っていう時間をね、極端に言うと…楽しむわけ。過ごすっていうか。 ワタシが言ってんのは、あれじゃないですよ。ピューリタニズム的な、プラトニック・ラブ崇拝とかね。あるいはマゾヒズムとかね。禁欲的な。恋愛とも準恋愛とも違うの。あの…人間にはね、抑止力ってものが備わってんですよ。これが無いとね、子どもは全員父親を殺しちゃうわけね。「父親に殺意を持つ」…でも殺せない。ここに屈辱や無力感だけじゃない、抑止力の効果を学ぶ…これが健全に発達するってことなの。順当な発達の流れですよ、これがね。そういうとこから始まって、抑止力っていうもののあらゆる力が、あらゆる場所に広がってるわけ。ポケットの中に鉛筆1本あって、飲み屋で絡まれたら、殺人なんて簡単なのよ。ライブ中に「アンプのボリューム最大にしたいな。」って。で、「PAぶっ壊したいな。」って、やるのは簡単なのよ。ツマミをこうやってやるだけだから。でも、やらないわけ。会社に行くと、なんとなく気になる子がいて、テメエには女房子どもが居て…以下同文なのよ。簡単なことなわけ。でも、やらないわけ。 世界は抑止力によって、すげえいい感じになってんですよ。そういうものがね、「ヤセ我慢」とか「抑圧」とか、「欲しいオモチャが手に入らない」って感覚で捉えられちゃうと…要するに、抑止力っていう素晴らしい能力…人間はね、頭のおかしくなった猿なわけで、地球から見たらろくでもない生き物なんですけど、抑止力っていうのは、ワタシ…ちょっといいなって思うんです。結構…「人類っちゅうのも捨てたもんじゃねえな。」って思う能力のひとつだと思うんです。江戸時代はこれを…「粋である」って言ったと思うのね。ま、「大人って何ですか?」って、よく聞かれるんですよ。52にもなると。ワタシなんかはもう…聞いてて分かると思いますけど、弟キャラのガキですけどね。だから…ワタシなんかに聞いても、しょうがねえと思うんですけど(笑)。ジャズなんかやってると、よく「大人って何ですか?」って聞かれますね。 「抑止力をエレガントに扱えて、楽しめる人」だと思いますよね。大人っていうのは。恋愛は狂おしいですよね。性愛が入ってくると、もっと狂おしくなったり、逆に一気に…冷めちゃったりしますけど。恋愛でも性愛でもない、抑止された状態ってのがね、音楽には…音楽は万能だから、何でも描かれてると思うの。だから、バート・バカラックって…そういう人にはバート・バカラックっていう流れだったんですよね。まあ、とにかくあの日は「レズ疑惑」晴らさないといけなかったんで(笑)。ここら辺の話が全カットになったんですよね。ま、言葉で言ってもややこしいばかりです。音楽でいきましょう、とにかくね。 はい、すべての言い出せない人…友情や恋や性欲が、友情か恋か性欲か…わかんなくなってきちゃった、入ってきちゃった…この関係に、どうしよう…動揺してる人、いっぱいいると思うんですよ。で、その人に聞いていただきたいです。この曲を。あの…甘いお酒かなんかを飲んじゃって、それでこの曲を聞いてる、と。そしたら、ちょっと何か…別に何の意味も無いんだけど、自然と身体が踊っちゃった、と。そしたら、その御相手の人ね…お友だちなんだけど、ちょっと気持ちが一線越えたかもしんない…と思われてる相手の方も、なんか…踊ってた。結局、二人で踊っちゃった…1曲。別にそれで…触ったとかじゃなくてですよ。同じ曲で踊っちゃった…そこまで。もうそこまでで充分セクシーで、充実してて、幸せ。これが我々の最もヘルシーな…ピークなんだ…っていうふうに、思えたら…いいですよね。 そういう願いを込めて、ま…バカラックは贈っちゃったんで、バカラックは切なめなほうだから、もうちょっと開きめのほうを。まあ、なんとですね。どんな曲かっつったらね、ラスタファリアンですよ。この番組でも何度か御世話になっている、イギリスの「Soul Jazz Records」がコンパイルしましたRASTAFARI「The Dreads Enter Babylon 1955-83」。「dreads」ってのはドレッドヘアーですね。55年から83年の…これはラヴァーズみたいなチャラいやつじゃなくて、ガチのラスタファリアンによる音楽なんですけども。ガチなだけに聞いていただきたい。今言ったような意味で、聞いていただきたいですね。はい、というわけで…アシャンティ・ロイ。その道では有名な方の曲です。「Hail The Words of Jah」…「Jar」っていうのは「ジャー、ラスタファイ!」…ラスタファリアンの挨拶の最初に付く言葉ですね。ワタシも意味が分かんないんですけども。ラスタファリアンの間では、よく使われる言葉です。
2015-12-12 11:43 

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