防衛費をソーシャル・メディアにつぎこんでみたら?という提案

防衛費をソーシャル・メディアにつぎこんでみたら?という提案です。

“さて、報道によると、イギリスが「Facebook部隊」というのを作るのだそうです。
さすがに日本よりソーシャル・メディアの力をよく分かっているなあと思う一方で、でも本質は見えていないような気がします。というのも、ソーシャル・メディアというのはこういうマスメディア的な使い方にはなじまないからです。
たとえば在日ロシア大使館の流暢な日本語によるツイートの数々をみてください。これがロシアの友人を日本に増やすことに成功しているとはとても思えません。
言っていることはもしかしたら切り取られた事実の一つとしては正しいのかもしれませんが、むしろ日本人に敵意を抱かせるような内容が少なくありません。中東にいた時はイスラエル軍のツイートもよく見ていましたが、「今日はパレスティナのテロリストを3人始末した」とかいうようなツイートもあって、逆に敵を増やしてしまっているような印象がありました。(パレスティナ側から見れば彼らは自由の戦士であるわけですから)
こういうソーシャル・メディアの使い方というのはその地域の安全を高めるためにはあまり役に立たないのではないでしょうか。つまり国防費の使い方としてはあまり効率的ではありません。いや、むしろ逆効果です。
そこで思い出すのは、国際交流基金の研修で日本に行ったイスラムさんというエジプトの青年のことです。彼はその同じ研修でイスラエルからの参加者に出会い、「本当に驚いた」と言っていました。なぜなら、彼は「普通の人間だった」からです。中東にいるとメディアに出てくるユダヤ人といえば、笑顔の人間でもなく、ナチスの迫害による被害者でもなく、パレスティナの子どもや老婆などに銃を突きつけている兵士と決まっています。
そういう情報に晒されている立場の人が、そうではない、名前のある等身大の人間に出会うことは、それまでの先入観や偏見を覆すことに非常に大きな効果があります。もちろん、中東の場合はパレスティナの問題が現状のままでは劇的な改善はないかもしれませんが、日本の場合はマスメディアが伝える政治家同士の問題を除けば、近隣諸国と抱えている問題はそれほど大きくありません。
それで僕が思うのは、ソーシャル・メディアを積極的に使えば、東アジアの平和を劇的に改善させることができるのではないかということです。と言ってもイギリスのFacebook部隊や在日ロシア大使館のように、自分の正当性を強調することによって却って敵を増やしてしまうような使い方ではなく、むしろ日本人の普通の暮らしをソーシャル・メディアでありのままに発信することによって日本と近隣諸国の間の緊張を緩和するのです。そのためには別に高尚なことを書く必要など全くありませんし、史実を間違いのないように検証する必要もありません。おじいちゃんと孫が一緒に写っている写真とか、愚かな失敗やちょっとした幸せなどの普通の暮らしを共有するだけでいいと思います。
たとえば僕自身もロシアとウクライナの衝突を見て、普通の日本人と同じように「ロシアってとんでもない国だな」とは思いましたが、しかし、Facebookでつながっているロシア人の日本語教師の皆さんのことなどを思い出すと、ウクライナにいる兵隊だけがロシア人ではないことはすぐに分かりますし、たとえば万一ロシアに軍事制裁しようなどという動きが出てくるとしても、そう簡単にそういう主張に乗せられてしまうことはないでしょう。それは僕がロシアの政治や経済を知っているからではなく(実際に常識程度しか知りませんし)、単にロシアの友人とオンラインでつながりがあるからです。僕のようにロシアに一度も行ったことがない人間でも、顔も名前も知っていて、やりとりもしたことがある人がいれば、その国と戦争したいなどとは思わなくなるものでしょう。
在特会のようなレイシストの団体に所属している人たちも、ビジネスでやっている指導者を除けば、ほとんどが在日朝鮮人の友人などいないのではないかと思います。友人がいないからこそ偏った主張しか耳に入らず、ああいったデモに賛同することになるのでしょう。
そう考えると、5兆円もの日本の防衛費を、イギリスにならってソーシャル・メディアに投入するというのも検討の価値があります。ソーシャル・メディアで、日本人はお正月の歴史映画に出てくるような軍服の兵隊だけでないことを知ってもらうのです。
繰り返しますが、日本の国防費は年間5兆円です。5万円でも5億円でもなく、5兆円です。総務省の調べては現在210万人の完全失業者がいるそうですが、この全員にソーシャル・メディア平和作戦の経費として5兆円を振り分けると、年間238万円を支給することができます。
あるいは、失業者の半分がネットを使えないとすれば、ネットが使える人だけに倍額の年間476万円でフルタイムで働いてもらうのでもいいでしょう。失業者全員を雇用するにしても、年間238万円では生活はできませんが、半年だけの雇用にして残りの半年は失業手当をもらえるようにすれば、普通は充分に生活できる金額になりますよね。つまり、もしソーシャル・メディアで中国や韓国の友人を作り、自分の日常をシェアする平和作戦を実行すれば、それだけで、失業者の全員が暮らせるようになるのです。
ここでは仮に、失業者の半数、100万人あまりが現在の防衛費5兆円を平等に受け取り年収476万円でこの仕事につくとしましょう。中国の最大SNSであるsinaweiboは6億人のユーザー数ですから、一人あたり600人の中国人の友人を担当することになります。僕は仕事として毎日巡回することにしている人たちのリストがありますが、これが160人ぐらいで、1日30分ぐらいしかかかりません(毎日書く人もあまり書かない人もいるので)。600人の中国人の友達を持つというのは、仕事の片手間にやるには大変な数字ですが、僕の経験を見ればフルタイムでやるなら特に難しい数字ではないことが分かるかと思います。そうすると、中国13億のおよそ半数が、オンラインで日本人の友だちがいるという状況になるのです。これってすごいことだと思いますよ。
ちなみに先ほど上げた僕が毎日巡回している160人の人たちのほとんどは日本人ではないのですが、「Google翻訳くん」というChromeの拡張機能を入れていると、選択部分を右クリックでGoogle翻訳に入れることができます。Facebook自体にも自動翻訳の機能がついていますし、今では他にもたくさんの翻訳補助ツールがあるので、言葉の問題はあまりありません。
さて、こういうことを主張すると、ソーシャル・メディアに明るくない人は「テロリストに狙われたらどうする」などと必ず言いますが、この仕事で雇用される100万人が自分の日常をシェアしている時に、テロリストに狙われる確率など交通事故で死ぬ確率に比べればゼロに近いと言っていいでしょう。日本では年間4千人ほどが交通事故で命を落としていますが、テロの犠牲になる日本人は少なすぎて比較になりません。つまり、自分で家の外を歩けるぐらいに交通事故が怖くない人は、その程度のリスクなら取ることができます。もちろん、在特会や曽野綾子氏のような排外的な内容を書き込んでいればそういうリスクは無視できないと思いますが、テロリストも普通の日常をシェアしている人を狙うまで暇ではないでしょう。
また、「それで安全が保証できるかなんて分からない。やはり武器は必要だ」という人も少なからずいますが、では、武器を揃えれば状況は変わるのでしょうか。戦争に勝者と敗者がいることを考えれば、どれだけ防衛費を費やしたとしても、平均すれば勝率は5割にすぎないのです。引き分けを考慮すれば5割にも届きません。実際に日本も74年前に勝てるかどうか分からない戦争に突入し、日本国内だけでも300万人もの貴重な人命と失い、莫大なお金を使って、結局戦争にも負けました。仮に勝っても死者は出ますし、負けた側からは憎まれます。一方、ソーシャル・メディア平和作戦では敗者は生まれませんし、死者も出ず、憎しみも生まれません。まあ、異文化が接触すれば常に多少の痛みはありますけど、殺し合いよりはずっとマシでしょう。
もし日本がイギリスにならってFacebook部隊を作るのなら、そういうスマートな方向を選んでほしいものですね。でも、今すぐに5兆円を投入してソーシャル・メディア平和作戦を実施するのはいろいろな抵抗があって現実的ではないかもしれません。
それでは、もしソーシャル・メディア部隊の100万人に任せずに、1億人の日本のネットユーザーが全員この平和作戦に参加したら? 中国のネットユーザー6億5千万人全員が日本人と友達になるには、日本人が一人6.5人を担当すればいいだけです。SNSなどでは一人ひとりを認識できるのは平均1人150人までと言われていますよね。それを考えれば6.5人というのはまったく負担のない数字です。このキャンペーンに参加する人が5割だったとしても1人あたり13人。まだまだ余裕ですよね。繰り返しますが、日本人のネットユーザーのうちの半分がweibo.comなどに行って、日本人の友人のいない中国人13人と友だちになるのです。それだけで、中国のネットユーザーの全員が日本人の友だちができるようになります。
今、技術的なそういうことが可能な時代なのです。技術は日本が世界とハッピーな関係を作るためにも使えますし、要塞を作るためにも使えます。皆さんはどちらのために使いたいですか?”

2015-07-25 18:48