“宮本:きつく言うことはありますが、感情にまかせて怒鳴ったり怒ったりはしません。そもそも、それでは通用しないんですよ。米国のブロードウェイでもロンドンのウエスト・エンドでもそうですけれど、感情的になってしまうと、みるみるうちに役者やスタッフが完全に距離を取りはじめるんです。「ああ、かわいそうな演出家だな。自分をコントロールできないんだ」「未熟な舞台演出だな」と言われる。芝居が成り立たない。それに、そんなことをしたら「あいつはコミュニケーションをうまく取れない演出家らしい」という噂がブロードウェイ中を駆け巡って、二度と声を掛けてもらえなくなってしまう。だから、一流の演出家は決して怒鳴ったりしないですよ。 これは、演劇の世界だけに限った話ではないんです。以前、指揮者がどう海外のオーケストラを短期間でまとめ上げて演奏するのかを調べたことがあるんです。チョン・ミョンフンさんや佐渡裕さんといった一流指揮者の稽古場をのぞかせてもらった。共通していたのは、言葉のやり取りでした。もっと演奏したくなる、もっとやってみたくなるような言葉を次々に投げかけ、それにオーケストラ側も応える。そうしているうちに演奏がどんどんよくなるんです。やはり、グローバルな舞台では「俺の言うことを聞け」「男は黙って~」というやり方は通用しないんですね。”