新型コロナウイルスの感染拡大防止に重要な役割を担う国立感染症研究所(感染研)に対して、直轄する厚生労働省が国の方針に沿って、出勤者を8割削減するよう指示していたことが分かった。 (市川千晴)
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厚労省の担当者は「新型コロナ対策の本丸的な組織であり、頑張らなければいけないので出勤八割削減に葛藤はあるが、感染研を含めた削減は首相の強い指示だ。業務に支障が出ないようやっている」と説明する。しかし、現場の職員からは「総力を挙げて当たる時なのに、こんな手薄な状況でよいのか」と疑問の声が上がる。
厚労省は緊急事態宣言が発令された四月七日から、全省的に出勤八割削減を目指す取り組みを始めた。本省だけでなく、内部組織の感染研や地方でPCR検査などを行う地方衛生研究所も対象となった。
感染研は二十六部署があり、研究者などの職員は約三百六十人。二〇二〇年度の予算額は六十四億九千六百万円。新型コロナ対策では診断法や治療法の研究、ワクチン開発などに取り組んでいる。
PCR検査を行い、発生状況を把握し感染経路などを特定する疫学調査も手掛ける。クラスター(感染者集団)が発生した場合、感染拡大を食い止める手だてを検討する厚労省のクラスター対策班には職員を派遣している。政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議では座長を筆頭に、委員十二人のうち三人が感染研出身者だ。
感染研などによると、新型コロナ対策対応と定期的な予防接種などのワクチン検定業務以外は一時休止状態にある。ただ、新型コロナ対応でも事務職は在宅勤務を進めている。新型コロナ対応職員数や感染研全体の出勤率について、厚労省は本紙の取材に「個別の数字の回答は控えたい」としている。関係者によると、四月中旬時点の削減率は五割程度だという。
感染研の担当者は「PCR検査は自治体などの処理能力を超えた分を感染研で受け持つ仕組みで、支障はない。研究開発も出勤して行う部分と、論文執筆など在宅でできるものがある」と話す。一方、ある職員は「予算も人手も削減されているが、今一番力を発揮しなければならないのに、一律に在宅勤務でよいか危機感を覚える」と話した。