中国の野生動物取引による新感染症、「今後も頻繁に発生」 専門家
2020年1月27日 15:11 発信地:上海/中国 [ 中国 中国・台湾 ]
【1月27日 AFP】17年前に発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)の世界的流行は、野生動物を食用にすることに対する警告として受け止められるべきだった。だが、中国・武漢(Wuhan)で発生した新型コロナウイルスの流行で、中国ではいまだ野生動物を食用にする習慣が続いており、人類の健康に対する危険性が増加していることを浮き彫りにした。
2002年から03年にかけ中国と香港で数百人の死者を出した、コウモリとハクビシンを自然宿主とするSARSと同様、新型コロナウイルスについても動物の食用取引によってヒトに感染したと考えられている。新型コロナウイルスでは、これまでに約2000人が感染したと考えられている。
新型コロナウイルスの感染源についてはいまだ特定はされていないが、武漢中心部の海鮮市場で不法に売られていた野生動物に由来するとみられている。この市場では、ハクビシン、ネズミ、ヘビ、オオサンショウウオ、生きたオオカミの子どもなどの取り扱いがあった。
野生動物の肉の取引に加え、人が野生動物の生息地に侵入していること、世界中で行き来が盛んになったことによって、動物由来のウイルスが簡単に広がるようになっていると、感染症予防に取り組むNGO「エコヘルス・アライアンス(EcoHealth Alliance)」のピーター・ダザック(Peter Daszak)氏は指摘する。
また、ダザック氏も参加する感染症予防を目的とする「グローバル・バイローム・プロジェクト(Global Virome Project)」は、自然界には未知のウイルスが約170万種存在し、そのおよそ半数が人類にとって有害だと推測している。
ダザック氏は、同プロジェクトによる調査結果は、毎年約5種類の新たな動物由来の病原体がヒトに感染していることを示唆していると述べる。
ダザック氏は、「今後は、感染症の大流行がもっと頻繁に発生することになる。それが普通となるだろう」と述べ、「ウイルスの宿主である動物への接触がますます増えている」と指摘する。
■感染症の60%以上は動物に由来
エボラ出血熱はSARSと同様コウモリに由来する一方、エイズウイルス(HIV)はアフリカに生息する霊長類を起源とする。今日、ヒトが感染する感染症の60%以上が、動物に由来すると科学者らは指摘している。
何千年もかけて適応してきたニワトリやウシなどでも、鳥インフルエンザや牛海綿状脳症(BSE)といった思いがけない感染症が流行することがある。
英イーストアングリア大学(University of East Anglia)でSARSやエボラ出血熱などの病原体を研究する生物学者ダイアナ・ベル(Diana Bell)氏は、「これら野生動物の未来と人類の健康のため、私たちは野生動物の消費を減らす必要がある」と述べる。
ただ、野生動物を食用にすること自体はそれほど危険ではないという。なぜならウイルスの大半は、宿主が殺されると死ぬからだ。
だが野生動物を捕獲したり、輸送したり、食肉処理をしたりする際、特に衛生状態が悪いまたは保護器具を使っていない場合には、病原体がヒトに感染する可能性がある。
中国政府は26日、新型コロナウイルスの発生源が野生動物を食用販売していた市場であるとみられることから、野生動物の取引の一時的な禁止を命じた。
■過去の習慣になるだろうが…
環境保護団体は、中国の消費者の購買力上昇を背景とした国内需要の増加によって、野生動物の食用取引が世界的に拡大していると指摘する。
また、中国では珍しい野生動物が昔から珍味や伝統薬として重用されている。
「5000年以上も続く文化的重要性のある活動をやめさせるのは非常に困難だ」とダザック氏は話す。しかし、いくつかの調査結果では、若い世代はコウモリやネズミ、オオサンショウウオなどを食べることに興味がないとの結果が示されている。
ダザック氏は「今後50年でこの習慣は過去のものになると考えている」が、「問題は、今日世界は密接につながっており、感染症が3週間で世界中に広がる可能性があることだ」と述べた。(c)AFP/Dan Martin