総論:成人の発達障害とは 加藤 進昌 先生 (昭和大学附属烏山病院) 平成14年度の文部科学省の調査で、学習面または行動面で著しい困難を示す児童生徒が約6.3%認められたことにより、発達障害者支援法が成立した。その中心をなしているのが自閉症スペクトラム(ASD)と注意欠陥・多動性障害(ADHD)である。発達障害はかつて十分に認識されていなかったために「過小診断」が指摘される時代もあったが、今日ではむしろ、逆に何でも発達障害と呼んでしまう「過剰診断」の時代を迎えている。その背景には社会全体のパーソナリティ障

総論:成人の発達障害とは
加藤 進昌 先生 (昭和大学附属烏山病院)
平成14年度の文部科学省の調査で、学習面または行動面で著しい困難を示す児童生徒が約6.3%認められたことにより、発達障害者支援法が成立した。その中心をなしているのが自閉症スペクトラム(ASD)と注意欠陥・多動性障害(ADHD)である。発達障害はかつて十分に認識されていなかったために「過小診断」が指摘される時代もあったが、今日ではむしろ、逆に何でも発達障害と呼んでしまう「過剰診断」の時代を迎えている。その背景には社会全体のパーソナリティ障害と知的障害との混同がある。一方、成人では児童期には表面化しない問題が顕在化している可能性もある。一番ありうるのは性差(男性に圧倒的に多い)と異性関係、ジェンダーの問題である。
烏山病院の専門外来での統計では、ASDは約33%、注意欠陥障害(ADD)/ADHDが約9%、すなわち専門外来を訪れる人々の中でさえASDとADHDの診断は約40%にとどまっている。残りは約10%が診断なし(精神科的に問題なし)、5%が精神遅滞、その他の精神障害が約40%である。
自閉症の診断基準は、対人相互性(社会性)の障害、コミュニケーションの障害、興味の限局、反復的・常同的行動であるが、ASDにおいて最も重要なのは対人相互性(社会性)の障害である。ただ、社会性の障害といっても、ADHD、統合失調症、社交不安障害では、それぞれに障害のパターンが異なっている。社交不安障害は対人関係に非常に敏感であるのに対し、ASDではむしろ極端な鈍感さが目立つ。そうした意味で最も混同されやすいのがパーソナリティ障害であるが、パーソナリティが形成されるのは10歳前後でありそれ以前にはさかのぼれない。それに対して「いつでも、どこでも、誰にでも、死ぬまで」同じ状態が継続するのがASDの特徴である。
成人のADHDは、普通に社会生活を営んでいる場合も多く、患者の実数は児童期よりもかなり少ない。印象としてはADHDは肉食系、ASDは草食系で、それぞれにたたずまいが異なっているようにみえる。ただし近年、治療薬が登場したためか、ADHD患者が急増し、それに伴ってADHDとASDの特徴が混在したような人もみられるようになった。あくまでも仮説ではあるが、ASDもADHDも学習障害(LD)の一部なのかもしれない。
現在、烏山病院では、発達障害を対象としたデイケア(ショートケア)を行っている。言語的表出が比較的多い人にコミュニケーション・就労支援を行う「水曜クラブ」、知的に遅れがある人にコミュニケーション・生活支援を行う「木曜クラブ」、参加者の約8割が就労中で職場での悩みも共有する「土曜クラブ」を設け、各クラブとも1年で卒業を迎える。
最後に2013年に実施したアンケートでは、本人および家族の「就労・就学支援」「こだわり行動の低減」に対するニーズの高さに対し医療側の対応の遅れ、家族は「感情のコントロールのむずかしさ」に困っている、よく言われる「感覚過敏」は意外に本人、家族ともに問題にしていない、といった問題点がわかってきた。