女性のヘルスケアワーカーの多くが「貧困レベル」 米研究

 米国では、多くの女性が医療や介護サービスなどヘルスケア関連の仕事に従事している。しかし、こうした女性の多くは低賃金で、医療保険に加入していないことが、米ハーバード大学医学大学院のKathryn Himmelstein氏らの研究から明らかになった。詳細は「American Journal of Public Health」1月号に掲載された。
 Himmelstein氏らによると、米国では女性全体の約20%が医療や介護サービスの仕事に従事している。また、こうした分野で働く労働者の85%以上を女性が占めているという。職種には、看護師や在宅ケア、高齢者や患者の身の回りの世話などを行う介護者が多い。
 Himmelstein氏らは今回、2017年以降の統計データを用いて、ヘルスケアワーカーの賃金と保険加入率、公的サービスの利用率を調べた。その結果、女性のヘルスケアワーカーの3人に1人は時給が15ドル未満(約1,600円)の低賃金で、特に黒人やヒスパニック系ではその割合は50%を占めていることが分かった。
 女性のヘルスケアワーカーの平均時給は約19ドル(約2,000円)であった。この時給は、他の産業で働く女性の平均時給と比べれば高いが、同じ産業で働く男性労働者(平均25ドル超;約2,700円)と比べると約25%低かった。年収ベースでも、男性の方が女性よりも25%高かった。Himmelstein氏らによれば、ヘルスケア関連の産業以外では、こうした男女間の年収の差は平均で7.5%にとどまるという。
 また、女性のヘルスケアワーカー全体の貧困率は約5%で、黒人では11%、ヒスパニック系では9%に上っていた。さらに、女性のヘルスケアワーカーの約7%が医療保険に加入しておらず、公的保険のメディケイドや、食料費の補助(フードスタンプ)、公営住宅といった低所得者向けの公的サービスに頼らざるを得ない女性が多いことも明らかになった。
 研究では、女性のヘルスケアワーカーの最低賃金を時給15ドルとすれば、貧困率が27~50%低下すると推定された。なお、それに伴いヘルスケア関連の費用は増加するが、その増加幅は約1.3%に過ぎないことも分かった。
 Himmelstein氏は「この研究結果は衝撃的だ。170万人の女性ヘルスケアワーカーとその家族が貧困の中で生活していることを意味するものだ」と話し、病院や介護施設などに対し、生活するのに十分な賃金や補助金を従業員に支払うよう求めている。また、「一部の施設は自発的に賃金アップを行っているが、全体の賃金の底上げを行うためには何らかの規制が必要かもしれない」と指摘している。
 一方、医療従事者の労働組合で調査・団体交渉部門のディレクターを務めるSteven Kreisberg氏は「低賃金はこの産業だけの問題ではないが、ヘルスケア関連の仕事では高いスキルが求められることが多い」とした上で、「ヘルスケアには多額の費用がかけられているが、必ずしもそれが現場で働く人たちに還元されているわけではない」と述べている。また、米クイニピアック大学医学大学院のAngela Mattie氏は「病院ではさまざまな職種の人が働いているが、どの職種も医療の質を守っていくうえで重要だ。食料を買えない人や暖房代を払えない人が働いているという状況は容認されるべきではない」と話している。