統合失調症の原因を探るうえで遺伝的素因は古くから注目されてきた。1つの家系に複数の罹患者がいる場合,発症につながる何らかの遺伝的変異を疑うのは自然なことだ。ゲノム解読が進み,遺伝子の大規模解析が可能になると,統合失調症の原因遺伝子の追究に期待が寄せられるようになった。しかし同時に,この道筋は様々な矛盾をはらみ,決して平坦でないこともわかってきた。著者らは大規模解析とは異なる遺伝子研究を模索するなかで,タンパク質の代謝の過程で蓄積する終末糖化産物(AGEs)が統合失調症の発症と関連づけられるこ可能性を発見した。
統合失調症の発症者にはAGEsがあまりやすい遺伝子変異を持つ人がいる。AGEsが蓄積する状態を「カルボニルストレス」と呼ぶ。発見のきっかけとなった症例は,グリオキシラーゼ1遺伝子(GLO1)の活性が低く,カルボニル化合物の分解が進まず,AGEsの蓄積を防げない。一方,ビタミンB6(ピリドキサミン)にはカルボニル化合物と結びついて,AGEsを分解する働きがあり,この効果はGLO1の活性低下を補うことがわかった。現在,ピリドキサミンを用いた治療が臨床試験の段階に入っている。