適切な食事,定期的な運動,高等教育など,認知症の発症リスクを下げるとみられている要因はいくつもある。だがこれまで,個々の要因が発症リスクを低減させることを直接示す証拠はなかった。2010年,米国立衛生研究所(NIH)の専門家会議は,特定の要因が認知症のリスクを下げるかどうかを判断するには証拠が不十分だとして,アルツハイマー病を予防する可能性のある要因を複数まとめて実施してもらい,その効果を調べる「ランダム化比較試験」の実施を提言した。
その最初の例のひとつが,フィンランドで2009年から11年にかけて実施された「FINGER試験」だ。認知症のリスクがやや高いと判断された66から70歳の高齢者1260人が参加し,うち半数がくじ引きで無作為に選ばれて,認知症のリスクを減らすと期待される要因をふんだんに盛り込んだプログラムに取り組んだ。野菜と魚を中心とした地中海式食事を多く摂り,恒常的に筋力トレーニングと有酸素運動に取り組み,認知機能の課題をこなし,医療者による定期的なメタボリック検査や血管のチェックを受けたのだ。2年後に調べたところ,プログラムに参加したグループは,そうでないグループより認知機能の点数が25%高くなった。