企業が合併して規模が拡大すれば、安定性、持続性が改善します。さらに無駄がなくなって、生産性が向上します。当然、社員の給料は上がります。

専門の人に言わせればそんなに簡単なことではないとの結論だろうが
分かりやすい
こういう面もあるのだろうが、大企業病と言われるものもあって
企業内で「搾取」が行われる
人事の名人だけが経営トップに上り詰めるなども起こる

このようにデータを冷静かつ客観的に見ると、日本という国が潜在能力は抜群に高いけれど、その能力を生かせず、最も実績につなげられていない国だという結論に帰結します。それはなぜなのでしょうか。
日本型資本主義だ、価値観の違いだ、農耕民族だからだ、多神教だからだなど、残念ながら、何一つ科学的な根拠のあるものはありませんでした
きっかけはカナダの中央銀行が発表した論文でした(Danny Leung Césaire Meh, and Yaz Terajima,“Firm Size and Productivity,” Bank of Canada Working Paper, 2008-45, November 2008.)。
アメリカとカナダでは、生産性がかなり違います。アメリカは1人当たりGDPが世界11位で、カナダは22位です。なぜこのような差が出ているか。
結論から言うと、先ほどの論文では、アメリカとカナダ両国の製造業における生産性ギャップの48%は、「企業の規模の違い」によって説明がつくと分析しています。
アメリカでは、1987年の従業員10人未満の企業の1人当たり生産性は、全体平均の62%に過ぎず、一方500人以上の企業は平均の126%だったそうです。
カナダの場合、100人未満の企業の1人当たり生産性は全体平均の62%で、500人以上は平均の165%だと報告されています。サービス産業では、さらにこの傾向が強いとも指摘しています。
よって、アメリカとカナダの生産性の違いは、企業の規模の分布の違い、中堅以上の企業の構成比の違いによって発生していると分析されています。
国連が発表している数字を確認すると、やはり企業規模の違いが、先進国間の生産性の違いを説明するにあたって極めて大きい要素であることがわかりました。
実は、企業の規模と生産性との間には相関係数0.93という、驚異的に強い関係があるのです。経済学を学んだ人にとっては、「規模の経済」という言葉が存在する通り、当たり前と言えば当たり前の話です。
20人未満の企業で働く労働人口の割合を見ると、スペインとイタリアは非常に高いのが分かります。たびたび財政危機に陥るギリシャも同様です。
日本も世界標準に比べて非常に高く、約20%です。日本がスペインとイタリアと比べて潜在能力が高いのにもかかわらず、実績につなげられない原因が、実はここにあったのです。
日本、そして同じように生産性の低いスペイン、イタリアは、極めて小さい企業で働く人の割合が多いという共通の特徴があります。一方、高い生産性を誇るアメリカではその割合はわずか11%です。
そして、アメリカの数字を追っていくと、大企業で働く労働者の比率が世界一高い国だからこそ、大手先進国の中で生産性が極めて高いということがわかります。アメリカの活力の秘訣はベンチャー企業などが多く立ち上がることだと主張する日本の学者は多いですが、それは違います。アメリカの場合、ベンチャー企業の数ではなく、ベンチャー企業がすぐに大企業に育っていくことが経済の活力の源なのです。
小規模な企業で働く人の割合が多ければ多いほど、生産性が低くなるという関連性が導き出される
ニュージーランドは、生産性向上を徹底的に追求しているデンマークの経済政策をベースにして生産性向上政策を実行してきました。しかし、デンマークはその成果が世界的に注目されているのに、ニュージーランドの生産性は思うように上がっていません。その原因を探っていくと、零細企業で働く労働者の比率によって説明がつくことがわかりました。ニュージーランドは20人未満の企業で働く労働者の割合が高い一方、デンマークは世界的に見てかなり低いのです。
ちなみに、この数字で重要なのは、全企業のうち、中小企業比率が高いか低いかということではありません。重要なのは、どの規模の企業に労働人口が集中しているかです。
極めて小さい企業で働いている人が多すぎるのが、日本経済の成長を阻害している最大の壁なのです。日本の生産性が潜在能力に比べて低い原因はここにあります。
日本は「賃上げ」をしないといけないのですが、それを実現するためには、企業の規模を拡大しないといけないのです。
日本経済をデフレから脱却させ、社会保障制度と国の借金を維持するためには、個人消費を守る必要があります。
人口が減少する日本で個人消費を守るには、個人の所得を増やす必要があります。世界的に見て、所得の水準と最も関連性が深いのが企業の規模です。
学問の世界では、企業の規模と社員の所得の相関が極めて強い原因はまだ究明されておらず、謎だとされています。しかし、その相関が強いという事実はすでに確認されています。
日本は中小企業の中でも、極めて従業員の少ない零細事業者に労働人口が集中しているのが、所得が低くなってしまっている理由の1つなのです。
たしかに日本の技術力は優れていますし、イノベーションを起こす力も強いと評価されています。にもかかわらず、なぜ生産性が低いのか。
こちらも小さい規模の企業が多いことで説明できます。企業の規模が小さければ小さいほど、技術の普及が進まないのです。
先進国では、女性活躍と生産性の間に0.77と言う極めて高い相関係数が確認できます。日本とアメリカの生産性の違いの約半分は、日本の女性の所得の低さで説明できます。
女性活躍と企業の規模に何の関係があるのか、疑問を持たれるかもしれませんが、やはり強い関連が確認できます。このことは、少し考えてみれば、当然のように思えてきます。
社員の数が多ければ、柔軟な組織運営が可能です。一方、小さい企業で、たとえば経理担当者が1人しかおらず、その人が女性の場合、仮に産休にでも入ろうものなら、途端にその会社はパニックに陥ってしまいます。もちろん、こういう場合、中堅以上の企業ならば対応可能な体制がとられていますが、それができない規模の小さい会社が日本にはゴマンとあるのです。
日本は社会保障制度と国の借金を維持するために、生産性を高めなくてはいけません。そして、そのためには企業の規模の拡大が必須なのです。
人口減少の中で企業の規模を拡大させることは、企業の数が減ることを意味します。これから2060年までに、労働人口は3264万人減少します。減少率は実に42.5%にのぼります。これで、企業数が減らないはずがありません。
事実、現在の各企業の就業者数が変わらないと仮定し、所得の高い大企業から労働人口を優先的に配分していくと、2060年には、現在の30人未満の企業の約半分と、20人未満の企業のすべてで、雇用できる人材がいないことになります。私が「日本から200万社が消える」と言っている根拠はここにあります。
人が減る中で、企業の規模を拡大するためには、倒産や廃業を促すのではなく、可能な限り合併によって規模を拡大させるのが望ましい方法です。
人口も減るので、企業の数が減っても、雇用は減りません。この点は、人口が増加している時代とはまったく異なっています。人口が減少するという新しいパラダイムの時代を迎えているので、当然と言えば当然です。
合併して、無駄な仕事をなくし、人を無駄な仕事から解放して、もっと生産性の高い仕事をさせるべきなのです。
一般的には会社の数が減ると失業率が上昇すると言われていますが、それは勘違いです。こういうことを言っている人は、企業の数と雇用の数を勘違いしているのです。
実は日本でも、企業の規模が拡大する傾向はすでに進み始めています。少しずつですが、1企業当たりの社員数は上がっているのです。
これまでは女性の労働参加を促すなど、人口が減っても労働人口を減らさないようにし、なんとか企業の数を維持してきましたが、これからは労働人口を増やすことが難しくなります。人口が減れば、企業の数が減っていくのは当然なので、この流れを政策的に止めるようなことは、決してやるべきではありません。
経産省によると、今でも相当数の中小企業には後継者がいないそうです。後継者がいないというのは、多かれ少なかれ、その企業に魅力がないことを暗示していると言えます。社員から、または社長の子どもから、その企業を継ぎたいと思えるほどの持続性がないと判断されているだけなので、無理に存続させる必要もないように思います。
企業の数が減ると、社長というポジションが減ってしまうので、社長たちだけは困るかもしれません。しかし、企業が合併して規模が拡大すれば、安定性、持続性が改善します。さらに無駄がなくなって、生産性が向上します。当然、社員の給料は上がります。働く人たちにとっては、悪いことは何もないのです。