老人の美学

“ 実はここからが老人の美学が発揮されるべきなのだ。以前にも書いたが老人の美学とは実は孤独に耐えることなのである。若い連中に張りあおうとすればどうしても他者の中へ行かねばならない。  出て行くと余計なことを言いたくなる。誰かの言うことすることについていやそれは違うと自分の意見を主張したくなる。ここから老害というものが始まるのである。しゃしゃり出たくなる欲望を抑え、用もないのにうろちょろせず、じっと我慢して孤独に耐えるのが老人の美学なのだ。  老人同士の集まりというものがある。しかしあれに加わるのも考えものだ。自我の強い老人が必ずいて、ひどい目に遭う。女性同士は仲良くやっているように見えるが、あれはあれで何やかやと陰湿な反目があるのではないか。やはり単独で孤高の道を選び、と言ってもそんな生き方を威張るのではなく、なんとなく存在しているのが一番だと思う。”
— 筒井康隆