昔から
うつ病の症状で統合失調症の経過をたどる患者さんたちがいた
クレペリンは統合失調症だと診断して
DSMは状態像からうつ病と診断した
結果として
現在は、難治性で緩やかにレベルダウンするうつ病が
抗うつ剤も効かないし精神療法も今ひとつの効果で問題になっているのだと思う
レベルダウンの程度によっては
発達障害と誤診されるし
コミュニケーション障害なんて言われたりもする
場合によっては性格障害と言われたり
また伝統的には抑うつ神経症といわれたりするわけだ
気分変調証の一部はこれだと思うし
また全般性不安障害もこの一部に当たる感じはする
病気も長くなればいろいろな影響が出るので
そこでさらに話が難しくなる
うつ症状の寛解増悪を反復し、ときに躁状態または軽躁状態または正常気分を経験する、そして
増悪期にレベルダウンし、それが回復せずに欠損として固定する、そのような病気
入社した頃は秀才で期待されたが40歳になると能力平均以下の社員とかいくらもいる
コミュニケーション障害があるけれども
小中高を通じて問題はなかった
もともとが診断の網の目から外れているし
良い治療法もないままで
いろんな人がいろんな説を「ついでに」言うだけで
後回しにされてきた感じはある
誰しも、とりあえず治ってもらって、感謝されたいだろう
名前を付けるとしてどういう名前がいいのかよく分からないが
満田の言う非定型精神病はこれを含むものだけれど
概念の成り立ちが違うし輪郭も全く違う
『うつ症状の寛解増悪を反復し、うつでないときには躁状態または軽躁状態または正常気分を経験する、そして
増悪期にレベルダウンし、それが回復せずに欠損として固定する、現実検討は保持され自我障害もない、
徐々に適応が悪くなるのでそれを補おうとして努力するが補いきれずに破綻する、
そのような病気』・・・Xとする
統合失調症単純型というものがあり
陰性症状のみで構成されると定義される
これなどは近い感じがするが
実態はかなり異なる
Xはプレコックス感がないし多くのものを共有して共感もできるし了解ができる
うつ症状のみで構成される統合失調症の一つのタイプといえる
また
慢性に経過し増悪を繰り返すごとにレベルダウンするうつ病の一つのタイプとも言える
しかしどちらとも言えない
ーーーーー
こういう話をすると、当然であるが
これと対になる病態が考えられる
増悪があるが欠損を残さずに完全に元に戻る統合失調症
あるいは自我障害を症状とするうつ病
ともいえる
これをYとする
ーーーーー
話を整理するとして
経過と症状の組み合わせで提示すると
統合失調症=慢性に経過し増悪のたびにレベルダウンする+自我障害
うつ病=完全に元に戻る+うつ症状
となる【うつ病とうつ症状はこんなにも意味が違うことに注意】
するとここで言うXとYは
X= 慢性に経過し増悪のたびにレベルダウンする + うつ症状
Y= 完全に元に戻る + 自我障害
となる
ーーーーー
統合失調症の軽症化と呼ばれているものはつまり
統合失調症ではなくYが増えてきているということだ
そしてうつ病についてはXが増えてきているということになる
DSMでいえばXはうつ病または躁うつ病、つまり気分障害に含まれるし
Yは統合失調症に含まれる
しかし経過診断で言えば
Xは統合失調症に含まれ
Yは躁うつ病に含まれる
つまり、
昔は シゾフレニー=X+S
躁うつ病=Y+MDI
現代では
シゾフレニー=Y+S
気分障害=X+MDI
となる
そこで 昔はX+S、現在はY+Sであるから比較すると、
XがYになった分、統合失調症が軽症化していると見える
また 昔はY+MDI、現在はX+MDIであるから比較すると
YがXになった分、うつ病が治りにくくなったと見える
自我障害 | うつ状態 | |
慢性経過で増悪のたびにレベルダウン | S | X |
増悪の後完全に元に戻る | Y | MDI |
この表を縦に読むとDSMで、横に読むとクレペリンになる
ーーーーー
ここまではずっと考えてきたことだから
簡単に書けるのだけれど
治療の部分がうまく書けない
それぞれの場合により手探りである
それでも何かの「アルゴリズム」がないかと
検証しているが
いまのところ、うまくいっていない
ーーーーー
症状はおおむねを考えると病理の場所に依存する【トポロジー】
脳血管障害でも脳腫瘍でもてんかんでも、場所に依存して症状が発現する
たいていは症状を見れば場所がわかる
それが神経内科の教えである
また発症の時間経過とその後の症状進展の経過をみれば
病理の性格がわかる【テンポラールプロフィール】
たとえば急激に発症して固定すれば脳血管障害の可能性がある
亜急性に成立するものは感染症による脳症の可能性がある
慢性の経過では脳腫瘍の可能性がある
またさらに慢性のものではパーキンソン症のような変性疾患が考えられる
アルツハイマーも変性疾患である
場所の病理に関してはたとえばてんかんの一種で
側頭葉てんかんで自我障害類似の症状が発生するので
そのあたりが怪しいことは分かっている
しかし何が起こっているのか分からない
テンポラールプロフィールでいえば
Sは比較的急激に発症してあとに欠損を残し多くは反復する
MDIは急激に発症してあとに欠損を残さずしばしば反復する
このような経過を取る変性疾患があるのだろうと思われるが
病理の性格ははっきりしていない
いまでも脳内の物質的変化であるという説とそうではなく外部からの心理的衝撃によるという説があり
折衷案が提案されて支持されている【ストレス脆弱性仮説】
個人的に考えるにSはどちらかと言えば場所の病理で
内界と外界の比較照合訂正機能の「場所」が機能不全であるもの
それが性的成熟と連動して発症する
また個人的に考えるにMDIは場所に関係しない病理で
「Manic cell」の過剰活動とその結果としての活動停止が
manieとdepressionの反復運動を引き起こすのだろうと思う
したがって、SとMDIは排他的であるとは考えない
内界と外界の比較照合訂正機能の「場所」 に 「Manic cell」の過剰活動とその結果としての活動停止が おこれば
Sの症状もMDIの症状も呈する
しかしながらSによる機能欠損の発生は
特徴的であり、どちらかといえばてんかんの特性に近い
昔は早発性痴呆と言われたように
シュープを反復するうちに脳細胞が破壊されてレベルダウンを呈する
知能遅滞に自我障害を呈する場合を接枝分裂病と呼んでいたものだが
独立に成立しているものか関連して成立しているものか不明である
しかし内界と外界の比較照合訂正機能の「場所」に発達の不全が発生すれば
それは症状成立としては理解しやすい
こうしてみると
自我障害は場所の病理
てんかんは細胞の異常活動と機能停止、またMDIは細胞の異常活動と停止さらにその後の機能復活と正常化で
説明できると思う
S=自我障害【場所】+てんかん型【病理】(てんかんでは長期に見ると脳細胞が死滅してゆく)
昔からてんかんの場合に統合失調症は起こりにくいと言われていて
その発想から電気けいれんを発生させて統合失調症を治療しようとした時代がある
最近ではカタトニーの観察から出発して
電気けいれん療法を試みることがある
ーーーーー
これらの病気がどのくらい昔からあったものか
様々な考えがある
ずっと昔からあって、それは宗教の領域と結合して解釈されていたとする考えもあり
また一方では近代産業社会の成立、都市の成立と関係しているとの説もある
これもまた折衷的な解決が提案されている
私の考えでは農村部で生まれてその場所に適応したドパミンレベルのセッティングだったものが
都市部に移動して高いドパミン活動にさらされる
その時期はちょうど思春期である
そのようなSの発症のメカニスムは想定しやすい
ーーーーー
こんなことを書いているのはもちろん背景に最近の気分安定薬の使用経験があり
さらにはドパミン系薬剤のうつ、躁うつに対しての使用経験があるからである
デパケン、ラミクタール、トピナ、エクセグランなど、必要に応じて使っている
またエビリファイやルーランを使うことがある
この効果はどのように説明できるのだろうか
これも昔からの話だが
レボトミンの5ミリ錠でうつから統合失調症まで調整する人もいた
ドグマチールは今でも胃潰瘍からうつや統合失調症まで使う
もちろん、個別の症状に対して各種薬剤を使用するのではなく
背後にあり、根っこにある病理に対して薬剤を効かせたい
そのための病理の推定である
原因が一つなら薬剤も一つでいいはずというのが合理的である
ーーーーー
軽症難治型うつ病といってもいいような気がするが好ましいネーミングではない
軽症なのに難治型なのである
うつ症状としては現実把握に困難があるわけではないし自殺を反復するわけでもないし
拒食を続けて栄養状態が悪くなるというのでもない
閉じこもりがちになり人との交流が減るくらいのものである
経済的に困窮したりはするが、その程度である
経過を見るとやはり難治型であって簡単に良くなるわけではない
環境を変えて一段落したとしてもそこから先何もなく安定するわけでもなく
やはり不適応が起こりやすい
むしろ重症であるが完治するというタイプのほうが対処はしやすくて
これが昔からあるMDIである
ーーーーー
仕事が長続きしなくて、今回もまた新しい会社で上司にきつく言われたら、会社にいけなくなって、
休むと連絡したら、医者に行って診断書をもらってきて下さいと言われた。休んで家にいると
掃除とか洗濯とかはかどって、自転車で遠くまで出かけたり、鉄道写真を撮影するために
計画を立てて出かけられる。友人と飲みに行ったり、バーベキューパーティができたりする。
仕事はしにくてはいけないと思っているが、自分にぴったりの仕事が見つかるまでは実力が発揮できない。
こういうタイプを私は自己愛型うつ病と呼んでいて、ナルシスデプレッションとあだ名をつけている。
理由のない誇大性があって、それはそう状態とは違うもの。
ナルシスというのだから理由のないうぬぼれが根底にある。
そう状態は成熟した大人がなるものだがナルシス
は未熟な人格である。
未熟の意味は、自分で物事の決着が付けられず、最終的には他人の手助けを待っていることだ。
可愛らしくて私は好きだけれども、忙しい世間では邪魔だと思われることも多い感じがする。
さて、Xとナルシスデプレッションの関係は、ということになるのだが、
一部重なるが、やはり距離があるという感じがする。
ナルシスデプレッションのほうがやや性格障害寄りのポジションだと思う。
Xは症状が長引くのでしばしば抑うつ神経症やディスチミア(気分変調症:大うつ病になるわけではないが、ながいあいだ抑うつ傾向が続く)といった解釈をされる。しかしたぶん、私の定義で言えば、Xは生物学的内因性のものである。
病気が長引いているうちに自分としてもどうしようもなく
不利な形での適応を採用してしまうことがあるし
他人から不利なレッテルを貼られてしまうこともある
しかしそれをはねのけることもできない
ーーーーー
経過としてはダブル・デプレッションの形を取るものと似ていることになる
しかしながらデスティミア自体の病理がはっきりしていない
Xについては明確に内因性・生物学的要因と規定している
Xが発生して多少なりともレベルダウンが起これば
抑うつ的な悩みが生じ
それに対して明確に対策をとりようもないので
多くは気分変調症の経過をたどるだろう
そのことをもってXとディスチミアが重なるものかどうか判定は難しい
ーーーーー
精神病理学の課題としては
Sの際の陰性症状と
MDIの場合のうつ症状がどのように区別されるのかとの問題がある
ドイツ精神医学はこの問題を微妙に回避していて
うつ症状があって、Sの経過をたどるならば、または自我障害があるならば、Sであると
規定していて、うつ症状の存在は診断にあたっては、ファーストクラスの意義を持たない
シュナイダーの一級症状と二級症状でいえば、Sの診断にあたり、うつ症状は二級症状である
しかし現代的な立場で
S陰性症状とMDIうつ症状との区別はできるように思う
おそらく背景性格とか経過とかを参照していると思うので
それではDSM的な議論にならないのが困る
しかし診察させてもらえば
区別はできるように思うのだけれども
このあたりが限界だろうか