精神障害には、共通する高頻度の遺伝的特徴がある
Last Updated: 2018-06-28 14:52:11 (Reuters Health)
By Will Boggs MD
ニューヨーク(ロイターヘルス)- 精神障害には共通する遺伝的特徴が多くある一方で、神経障害にはないと、Brainstorm Consortiumの新たな研究が示している。
「これらの関連の程度を明らかにした今、我々はこれを用いて、これらの障害がどのように生じるのかをより良く理解するための試みができる」と、Massachusetts General Hospital and Harvard Medical School(Boston)のVerneri Anttila博士は述べた。
「これらの障害の臨床的分類の精度を向上させ、根底にあるバイオロジーを反映できるようになれば、新たな治療や診断ツールの開発に役立つ可能性がある(また、今までこれほど困難であった理由を説明できるようになる可能性がある)」と、博士はReuters Healthにeメールで伝えた。
双生児と家族の研究により、多くの脳障害で遺伝率が相当高いことが認められており、また、ゲノムワイド関連解析(GWAS)により、それぞれで高頻度のリスク変異体が診断の境界を越えて重複しうることが示されている。
Anttila博士と共同研究者らは、25種類の障害に関するGWASメタ解析グループの共同研究であるBrainstorm Consortiumにおいて、10種類の精神障害と7種類の神経障害の包括的な遺伝率及び関連性の解析を行った。
研究者らは、精神障害及び神経障害で高頻度の変異体の遺伝率の推定値について、これまで報告されていたものよりもいくらか低い値を認めたが、診断のheterogeneity、確認誤り、及び影響力が大きいまれな変異の異常な寄与により、遺伝率の推定値が小さくなった可能性があると注意をしている。
複数の精神障害にわたって広く共通するリスク変異体が認められたが、神経障害では同様の共通点は認められなかった。
統合失調症は、ほとんどの精神障害と有意な遺伝的相関を示し、大うつ病性障害は、検査された他の全ての障害と正の相関を示した。
統合失調症、双極性障害、不安症、大うつ病性障害及び注意欠陥多動性障害(ADHD)はそれぞれ、その他の障害と高い相関を示したと、このチームは6月22日付けのオンライン版Scienceで報告している。
対照的に、外傷後ストレス障害は、その他の精神障害のいずれとも有意な相関を示さず、自閉症スペクトラム障害及びトゥレット症候群はどちらも、その他の精神障害との違いがより大きいようであった。
神経障害のうち、パーキンソン病、アルツハイマー病、全般てんかん及び多発性硬化症では、他の脳障害との相関はほとんど又は全く認められなかった。これらの障害のうち最も高い遺伝的相関が認められたのは焦点性てんかんであったが、これらの相関でも有意ではなかった。
片頭痛は、ADHD、トゥレット症候群及び大うつ病性障害などの他の障害といくらかの相関を示した唯一の神経障害であった。
また、研究者らは様々な脳障害及び認知行動の表現型にわたる多くの遺伝的相関も同定した。
「様々な遺伝的リスク因子間の遺伝的影響及び重複のパターンを明らかにすることで、これらの状態の根本的な原因をより良く理解し、将来的な治療法開発の鍵となるメカニズム及びターゲットを同定できる可能性がある」と、Anttila博士は述べた。「ここで用いたような新たな遺伝性に基づくアプローチにより、特に精神障害に関して、診断基準の設定方法を改善できる可能性がある。具体的には、新たに設けた問診や診断ツールが障害のある人とない人の違いをどれほどきちんと捉えるかを直接評価できるようになることである。つまり、我々はそのような変更を評価する新たな方法を得ているということだ。」
「更に、遺伝的影響やリスク因子を同定することで、これらの障害の鍵となるメカニズムを正確に示すという目標が前進する」と博士は述べた。「これを将来の治療法に反映させうる1つの方法は、特定の治療とは別様に利益を得る患者群を同定することであろう。」
「精神障害で重複している遺伝的影響が治療の選択にも影響を及ぼすかどうかを評価するには、更なる分析が必要である」と、研究者らは結論付けている。「最後に、そのような開発は診断のheterogeneityを減らすため、最終的には精神障害の診断及び治療を改善するための有望な手段である。」
Geisinger Autism and Developmental Medicine Institute(Lewisburg、Pennsylvania)のChrista Lese Martin博士は、Reuters Healthにeメールで伝えた。「我々のグループなどが以前、まれなコピー数変異(CNV)及び単一遺伝子疾患で述べた共通する又は『障害横断的な』遺伝的発見についての研究結果を、今回、高頻度の変異体に拡張して裏付けている、このような大規模な研究を見ることができて嬉しく思う。」
「我々は、神経障害や精神障害などの脳障害の根底にある、まれな及び高頻度の遺伝的構成を理解するうえで大きな前進をしている」と、博士は述べた。「この知識は既に、まれな変異体に関して臨床診療でルーティンに使用されている(自閉症や他の発達障害の小児における全エクソーム解析など)。今回のような高頻度の遺伝的変異についての研究は、他のリスク因子や脳障害でみられる変動的な表現型の発現を理解するうえで役立つであろう。」
「最終的には、脳障害の遺伝的基礎を知ることで、標的を定めた診療管理及び治療アプローチを、プレシジョン医療構想に従って開発できるようになるだろう」と、Martin博士は述べた。「Geisingerで我々は今まさに毎日のように、この種の知識を用いて、これらの脳障害の標的を定めた診療に情報を与えている。」
Science 2018